交通事故によるびまん性軸索損傷とは?症状や後遺障害などを解説
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
交通事故により頭部に大きな衝撃を受けると、「びまん性軸索損傷(せいじくさくそんしょう)」を発症することがあります。 びまん性軸索損傷は、脳の広い範囲で軸索の断裂や損傷が生じることから、意識障害・記憶障害・行動障害などの症状を引き起こし、事故による頭部外傷のなかでも重篤な後遺症が残ることの多い傷害です。 この記事では、交通事故によるびまん性軸索損傷に着目して、症状・診断・治療法といった基礎知識や後遺障害など、適切な損害賠償を得るために押さえておくべき重要なポイントを解説していきます。
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目次
びまん性軸索損傷とは?
びまん性軸索損傷とは、頭部に回転性の外力や揺さぶられるような力が加わることにより、脳の神経細胞の一部である「軸索(じくさく)」が広範囲に損傷している状態を指します。 頭部外傷は大きく、「頭蓋骨への損傷」と「脳への損傷」に分けられ、脳への損傷はさらに、損傷部位が局所的か全体的(びまん性)かによって「局所性脳損傷」と「びまん性脳損傷」に分類されます。 びまん性軸索損傷は、びまん性脳損傷のなかでも最も重症なタイプです。 長期間の昏睡や重度の意識障害といった症状を引き起こし、脳幹損傷を伴う重症例では死亡率が約60%と死に至るケースも少なくなく、命が助かっても植物状態になるなど、重篤な後遺症が残ることが多いといわれています。
びまん性軸索損傷の症状
神経細胞間の情報を伝えるための軸索が損傷するびまん性軸索損傷では、神経伝達が妨げられることにより、事故直後から意識障害が生じることが多いです。 軽症の場合は短期間の意識障害にとどまることもありますが、重症の場合は長期的な意識障害や昏睡状態が続き、植物状態(遷延性意識障害)になったり、死に至るケースも少なくありません。 意識が回復した場合でも、認知障害や行動障害などのさまざまな症状が生じ、日常生活に支障をきたしたり、後遺症が残ったりして、被害者ご本人やそのご家族に大きな負担をもたらします。 また、びまん性軸索損傷では、事故前後で日常生活での言動に変化が生じることがあります。 「性格が変わったように感じる」、「スムーズに話せなくなった」など、違和感が生じた際にはすぐに病院を受診して相談することをおすすめします。
びまん性軸索損傷になる原因
びまん性軸索損傷になる原因として、圧倒的に多いといわれているのが交通事故です。 ほかに、転落事故や揺さぶられっ子症候群が原因となって発症する例もあります。 いずれも、頭部への強い衝撃や急激な加速度変化が加わる状況で軸索損傷が生じると考えられています。 事故で頭部に直接外傷を負わなくても、脳が大きく揺さぶられることでびまん性軸索損傷を発症している可能性もあるので、事故後に意識消失が6時間以上続く場合や、CTで異常が見られないにもかかわらず重度の意識障害がある場合は、早急に病院で検査や治療を受けましょう。
交通事故によるびまん性軸索損傷の診断・治療方法
CT検査で明らかな血腫や脳挫傷が認められないにもかかわらず、事故直後から6時間以上の意識消失が続いた場合に、びまん性軸索損傷と診断されます。 比較的症状が安定した慢性期では、CTやMRIに広範囲な脳萎縮がみられることがあります。 びまん性軸索損傷に対する効果的な治療法は確定しておらず、現在の医学では手術による修復も不可能です。 点滴や栄養補給を行いつつ、呼吸・循環や頭蓋内圧を管理して全身の状態をできる限り良好に保ち、二次的脳損傷を予防しながら回復を待ちます。 意識状態が回復してきたら、リハビリテーションによって症状の改善や日常生活への復帰を目指すことになります。 一般的に、意識消失の時間が長いほど予後は不良となる傾向にあり、最悪の場合は死に至るケースもあるので早期に検査・診断を受け、十分な治療を受けることが重要です。
びまん性軸索損傷の診断にはMRI検査が必要不可欠
びまん性軸索損傷の診断において、MRIは非常に重要な検査です。 頭部外傷を負うと、まずはCT検査が行われることが多いです。 ですが、CT検査では細かな脳の損傷を捉えにくく、びまん性軸索損傷をはっきりと確認できないケースも珍しくありません。 そのため、CT検査では見逃されがちな微小な出血や軸索損傷を特定しやすい、より精度の高いMRI検査が必要不可欠なのです。 実際、CT検査では明確な異常が認められなかったものの、MRI検査で微小な出血や軸索損傷が確認できたケースもあります。 びまん性軸索損傷では、時間の経過に伴って脳室拡大や脳萎縮が生じることもあるので、事故直後と事故後の画像を比較できるように、定期的に画像検査を受けておきましょう。
びまん性軸索損傷で考えられる後遺症は?
交通事故でびまん性軸索損傷を発症した場合、四肢の麻痺・遷延性意識障害植物状態)・高次脳機能障害(脳の損傷)などの後遺症が残るケースがあります。 これらのうち、問題になることの多いのが「高次脳機能障害」です。
高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害とは、脳が損傷して言語・思考・記憶・学習・注意・判断を行う「知的な機能」に障害が起きた状態をいいます。
高次脳機能障害は、記憶障害や感情コントロールの低下などの症状が、日常生活や社会生活に大きな支障をきたすことが知られています。 症状が複雑で多岐にわたるうえ、見た目にはわかりにくいので、被害者ご自身が脳の損傷に気付かず、ご家族やご友人が言動の変化に気付いてはじめて発覚するケースも珍しくありません。 びまん性軸索損傷の後遺症・高次脳機能障害について詳しくお知りになりたい方は、以下のページもご参考ください。
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後遺障害等級と請求できる慰謝料相場
びまん性軸索損傷の後遺症が残った場合、後遺障害等級認定が受けられると「後遺障害慰謝料」が請求できるようになります。 後遺障害慰謝料は認定された等級に応じて一定の相場額が設定されていて、症状の重さや日常生活への影響に応じて金額が変わります。
<高次脳機能障害が残った場合の後遺障害等級と慰謝料の目安>
びまん性軸索損傷により高次脳機能障害が残った場合、症状の程度に応じて1級・2級・3級・5級・7級・9級・12級・14級のいずれかの後遺障害等級に認定される可能性があります。 これらの等級に応じた慰謝料相場は110万~2800万円程度が目安とされています。
| 等級 | 自賠責基準※ | 弁護士基準 | |
|---|---|---|---|
| 自賠法施行令 別表第1 |
1級1号 | 1650万円 | 2800万円 |
| 2級1号 | 1203万円 | 2370万円 | |
| 自賠法施行令 別表第2 |
3級3号 | 861万円 | 1990万円 |
| 5級2号 | 618万円 | 1400万円 | |
| 7級4号 | 419万円 | 1000万円 | |
| 9級10号 | 249万円 | 690万円 | |
| 12級13号 | 94万円 | 290万円 | |
| 14級9号 | 32万円 | 110万円 | |
※自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。
後遺症とは別に、びまん性軸索損傷の治療で入院・通院した期間に応じて「入通院慰謝料」も別途請求できます。 詳しくは以下のページをご参考ください。
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後遺障害等級認定を受けるためのポイント
適切な後遺障害等級認定を受けるためには、「交通事故によるびまん性軸索損傷で後遺症が残り、日常生活や社会生活に支障が出ていること」を被害者自ら立証する必要があります。 とはいえ、びまん性軸索損傷は画像所見が乏しく、立証するのは容易ではありません。 そこで、びまん性軸索損傷の後遺症で適切な後遺障害等級認定を受けるためのポイントをいくつかご紹介します。
<びまん性軸索損傷の後遺症で後遺障害等級認定を受けるためのポイント>
- 精度の高い画像検査を受ける
➡ CT検査だけでなく、より精度の高いMRI検査を受けましょう - 事故直後から定期的に画像検査を受ける
➡ 事故前後の画像を比較できるよう、多くの画像所見を集めておきましょう - 日常生活状況報告書を作成する
➡ 被害者の方をよく知るご家族や勤め先の人などに報告書を作成してもらいましょう - 適切な後遺障害診断書を作成してもらう
➡ 自覚症状や日常生活への影響が記載された診断書を医師に作成してもらいましょう
交通事故によるびまん性軸索損傷の重篤な後遺障害に関する裁判例
【平成26年(ワ)第2043号 大阪地方裁判所 平成28年2月3日判決】
<事案の概要>
被害者(男性・事故当時67歳)が信号のない丁字交差点の横断歩道を徒歩で横断中に、加害者が運転する自動車に衝突され、びまん性軸索損傷を含む重度の傷害を負った事故事案です。 事故後、長期入院・通院を経て、外傷性くも膜下出血・急性硬膜下血腫・右前頭葉脳挫傷・びまん性軸索損傷、高次脳機能障害について症状固定と診断されました。
<裁判所の判断>
加害者は、「被害者に残存した症状は軽快していて随時介護は必要なく、医師の意見書は家族の主観に基づく」として、後遺障害慰謝料や将来介護費について争うと主張しました。 裁判所は、被害者に記憶障害や抑制コントロールの低下など、びまん性軸索損傷による重度の高次脳機能障害が残存し、日常生活動作の行為自体はほとんど自立して行うことができるようになったものの、家族による声掛けや見守りが必要であることなどを踏まえ、自賠責保険の後遺障害等級「2級1号(神経系統の機能または精神に著しい傷害を残し、随時介護を要するもの)」に該当すると判断し、後遺障害慰謝料2000万円と、約1780万円の将来介護費(日額4500円×平均余命16年分)の請求を認めました。 本件事故では被害者に5%の過失が認められたことより、最終的に容認されたのは、被害者本人に対する賠償額が約1800万円、被害者の妻に対する固有の慰謝料が約200万円、4人の子供に対する固有の慰謝料が各50万円ずつとなりました。
びまん性軸索損傷の賠償金を適切に受け取るためにも、交通事故に強い弁護士にご相談下さい。
びまん性軸索損傷は、交通事故による重度の脳損傷ですが、画像所見で異常が認められなかったり、被害者ご本人が症状に気付かなかったりするため、診断が難しいとされています。 適切な賠償金を受け取るためには、交通事故に強い弁護士のサポートが欠かせません。 弁護士法人ALGでは、医療分野に特化した弁護士と連携して、これまで多くの交通事故案件を取り扱ってきました。 びまん性軸索損傷で受けるべき検査や治療についてのアドバイスや、医学的根拠に基づいた立証を的確に行うことで、後遺障害等級認定の申請や示談交渉をサポートできます。 事故による被害でびまん性軸索損傷が疑われる場合や、びまん性軸索損傷で後遺症が残りそうな場合は、まずは一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
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