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びまん性軸索損傷とは?早期のMRI検査が重要

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

びまん性軸索損傷(びまんせいじくさくそんしょう)とは、頭部外傷における脳損傷のひとつです。交通事故などで頭部に強い衝撃が加わることで発症し、意識障害や高次脳機能障害といった深刻な症状をもたらします。 このページでは、びまん性軸索損傷の後遺障害について解説していきます。

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びまん性軸索損傷とは?

びまん性軸索損傷とは?

軸索とは脳の神経細胞を構成する組織のひとつで、神経細胞の他の部分で受け取った情報を送り出す役割を担っている一本の長い突起です。 転倒・転落や交通事故等によって、脳に強い衝撃を受けたり、頭部に外傷を負ったりすることで、頭部に強い回転力が加わり、軸索が損傷を負います。その状態をびまん性軸索損傷といいます。 びまん性軸索損傷は、CT検査をしても明確な損傷部分が映りにくいといった特徴があります。また、有効な治療法は確立していませんので、症状を和らげる対症療法が治療の中心となっています。

びまん性軸索損傷の症状

びまん性軸索損傷の症状として、意識障害が事故直後より6時間以上継続することが挙げられます。 有効な治療法は、現代の医療では確立されていません。そのため、二次的脳損傷が発生しないよう、脳圧や呼吸の管理といった対症療法を行うしかありません。 また、意識回復後には、後述する高次脳機能障害による精神症状や、歩行障害・手足の痙性麻痺といった神経症状が現れることが特徴的です。

びまん性軸索損傷はMRI画像所見が重要

びまん性軸索損傷では、軸索が損傷した部分に点状出血を生じることがあります。 交通事故で頭部に外傷を受けると、一般的にまずはCT検査が実施されますが、びまん性軸索損傷ではCT画像に異常がみられないことがほとんどです。CT検査で異常所見がないにもかかわらず意識障害が続く場合、MRI検査が実施されます。MRI検査はCT検査よりも微少な出血の診断に優れているため、そこで初めて異常が発見されることがあります。 点状出血は、時間が経つと吸収されたり広がったりすることがあるため、びまん性軸索損傷の診断には事故直後のMRI画像所見が重要だといえます。 特に、事故直後は回復を願い救急の対応が中心となりますが、将来残存する可能性のある高次脳機能障害などに対し社会的なケアを受けるためには、後遺障害等級の認定を受けることが大切になります。そのときに備え、脳出血(脳内出血)があったことを立証するためにも、点状出血などの微小な出血が吸収される前に早期のMRI検査を行うことが鍵になると考えられます。

事故3ヶ月後に再度画像検査を受ける

びまん性軸索損傷を負った脳は、時間の経過とともに委縮が生じます。脳委縮は早ければ受傷から1週間程度で始まり、3ヶ月程度で停止するといわれています。 脳委縮は、脳内部の空間である脳室や脳表面のしわである脳溝が拡大しているかどうかで判断します。脳室や脳溝は加齢によって拡大するうえ、同年齢でも個体差が大きくなります。そのため、事故後3ヶ月程度で撮影したCT・MRI画像だけだと一見正常にみえることがあるので、その画像と事故直後の検査画像を比較する必要があります。 これらの比較画像は、後遺障害等級申請や示談交渉において、びまん性軸索損傷を発症したことを立証する際にも大変重要になります。もし事故直後にかかった病院から転医している場合は、双方の病院から画像をもらっておきましょう。

びまん性軸索損傷の後遺障害等級と慰謝料

びまん性軸索損傷で治療を行うと、加害者に対して入通院慰謝料を請求することができます。 また、びまん性軸索損傷による高次脳機能障害で後遺障害等級の認定を受けると、後遺障害慰謝料を請求することができます。 後遺障害等級は、自賠法施行令別表第1では第1級と第2級に、別表第2では第1級から第14級に分かれています。どちらも第1級が最も重症ですが、介護を要する場合は別表第1が適用されます。 高次脳機能障害で認定される可能性がある後遺障害等級は、自賠法施行令別表第1の第1級・第2級、別表第2の第3級・第5級・第7級・第9級になります。また、高次脳機能障害としては認められなくとも、何らかの神経症状があれば、別表第2の第12級・第14級に認定される可能性があります。

高次脳機能障害とは?

脳に損傷を負うと、「新しいことが覚えられない」といった認知障害や、「状況に合わせた適切な行動がとれない」といった行動障害、「気力が低下する」「怒りっぽくなる」といった人格変化が起こることがあります。これらの症状が高次脳機能障害の特徴であり、複雑で多岐にわたります。高次脳機能障害は医師であっても診断が難しく、被害者本人も自己洞察力の低下のために症状の存在を否定することがあるため、見落とされやすい障害です。

請求できる後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、後遺障害等級ごとに金額が決められています。さらに、同じ等級であっても算定基準によって金額が変わってきます。 下記の表で、高次脳機能障害で認定される可能性がある後遺障害等級ごとの後遺障害慰謝料を、自賠責基準と弁護士基準に分けてまとめました。これをみると、弁護士基準を適用した後遺障害慰謝料の方がずっと高額であることがわかります。なお、弁護士基準での慰謝料はあくまでも相場であり、個別の事情を考慮して増額される可能性もあります。

等級 自賠責基準※1 弁護士基準
別表第1 1級1号 1650万円 2800万円
2級1号 1203万円 2370万円
別表第2 3級3号 861万円 1990万円
5級2号 618万円 1400万円
7級4号 419万円 1000万円
9級10号 249万円 690万円
12級13号 94万円 290万円
14級9号 32万円 110万円

※1:自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。詳しくは、こちらをご覧ください。

びまん性軸索損傷で後遺障害等級認定された場合の慰謝料の計算例

ここで、びまん性軸索損傷による高次脳機能障害が、後遺障害等級5級2号に認定された場合の入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を計算してみましょう。 治療期間については、入院期間6ヶ月(180日)、通院期間13ヶ月(390日)、実通院日数200日と設定します。

自賠責基準の計算例

<入通院慰謝料> 自賠責基準では、対象日数1日につき4300円※2として入通院慰謝料を計算します。対象日数は、①入院期間+通院期間と②(入院期間+実通院日数)×2を比較して、少ない方を採用します。 今回の場合、①180日+390日=570日、②(180日+200日)×2=760日となるので、①570日を対象日数として採用します。よって、4300円×570日=245万1000円となります。 しかし、この金額をそのまま入通院慰謝料として請求できるわけではありません。自賠責保険では保険金に限度額が定められており、傷害部分の損害に対しては、入通院慰謝料・治療関係費・休業損害・文書料をすべて合計して120万円までしか支払われないこととなっています。 今回のケースは治療期間が長く、治療関係費や休業損害が高額になることが予想されるため、入通院慰謝料として請求できる金額は120万円よりもさらに低額になります。

※2:令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準の日額4200円が適用されます。

<後遺障害慰謝料>
後遺障害等級5級2号では、618万円※3になります。

※3:自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

弁護士基準の計算例

<入通院慰謝料> 弁護士基準では、一般的に『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称:赤い本)』に掲載されている算定表を用いて、入通院期間をもとに入通院慰謝料を算出します。算定表には2種類あり、通常の怪我の場合と軽い怪我の場合で使い分けます。 今回は後遺障害等級5級2号なので、通常の怪我の場合に用いる以下の表を参照します。

通常の怪我の場合【別表Ⅰ】

通常の怪我の場合【別表Ⅰ】
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 AB 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 314 321 328 334 340
1月 28 77 122 162 199 228 252 274 291 303 311 318 325 332 336 342
2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 322 329 334 338 344
3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 326 331 336 340 346
4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 328 333 338 342 348
5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 330 335 340 344 350
6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 332 337 342 346
7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 334 339 344
8月 132 164 194 222 248 270 290 306 318 326 331 336 341
9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 338
10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335
11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332
12月 154 183 211 236 260 280 298 314 326
13月 158 187 213 238 262 282 300 316
14月 162 189 215 240 264 284 302
15月 164 191 217 242 266 286

入院期間6ヶ月、通院期間13ヶ月に該当する列と行が交差する部分をみると、300万円と記載されています。よって、入通院慰謝料は300万円になります。

<後遺障害慰謝料>
後遺障害等級5級2号では、1400万円になります。

びまん性軸索損傷と診断されたら

びまん性軸索損傷と診断され、弁護士にご依頼されるケースでは、事故直後にご家族の方から相談される場合から、示談直前に「保険会社からこのような示談案が送られてきたのですが」と相談される場合まで、本当に様々です。 びまん性軸索損傷は派手な出血などがないため、一命をとりとめると被害者の方もご家族の方も安心してしまい、その後の後遺症について軽視してしまうことも少なくありません。しかし、損傷の程度が重いと本当に重篤な後遺症が残ってしまい、損害賠償だけでなく社会的な援助も必要となります。 特に、後遺症として残る可能性が高い高次脳機能障害は、認知障害・行動障害・人格変化を引き起こしますが、症状がわかりづらいため見落とされやすい障害といえます。さらに、高次脳機能障害が認められたとしても、後遺障害の等級認定の評価基準があいまいであるため、後遺障害等級申請の際にどのような資料を提出するか、医師にどのような検査をしてもらうか、その結果をどのように記載してもらうかにより、獲得できる後遺障害等級が大きく異なる可能性があります。 びまん性軸索損傷による後遺症は、被害者ご本人だけの問題ではなく、その後、被害者の方をフォローし続けるご家族の方にとっても重要な問題です。 適正な後遺障害等級を獲得し、将来のことを踏まえた損害賠償を得るためには、弁護士への早期の相談が不可欠です。

びまん性軸索損傷の後遺障害(高次脳機能障害)が認められた裁判例

【さいたま地方裁判所 平成29年7月25日判決】

被害者の男性(事故当時高校3年生)は、道路を自転車で横断していたところ、加害者の自動車と衝突しました。事故直後、被害者には重度の意識障害が認められ、CTやMRI検査の結果、びまん性軸索損傷と診断されました。その後、被害者の意識は回復し、治療やリハビリを続けたところ、日常生活動作がほぼ自立するまでに改善しました。 しかし、神経心理検査の結果、被害者には重篤な記憶障害があり、判断能力、記憶力、注意力が低下していることが認められました。また、被害者は、本件事故後より考え方が幼稚化し、両親に依存的になる他、怒りっぽくなったことで対人関係を良好に保つことができなくなりましたが、本人にはその自覚がありませんでした。さらに、被害者は小脳の損傷により、右手および体幹に震えが残っていたため、肉体作業だけでなく、細かな事務作業もできなくなりました。 以上のことから、被害者のびまん性軸索損傷による高次脳機能障害は、自賠法施行令別表第2の3級3号に該当し、労働能力を100%喪失したものと判断され、後遺障害慰謝料として1990万円の請求が認められました。また、被害者の両親についても精神的負担が生じているものとして、父母それぞれに固有の慰謝料が100万円ずつ認められています。

びまん性軸索損傷と診断されたら弁護士にご相談ください

びまん性軸索損傷で高次脳機能障害が残ってしまうと、被害者の方の日常生活に影響を及ぼすだけでなく、ご家族の方にも大きな負担が生じてしまいます。せめてその精神的苦痛に対しては、見合った慰謝料をしっかりと請求したいところです。 交通事故でこのような重篤な後遺症が残ってしまった場合は、弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士は、高額な慰謝料を請求することができる弁護士基準を適用して示談交渉を進めることができます。また、高次脳機能障害で適正な後遺障害等級を獲得するには、医療機関での検査結果や、被害者の日常生活についてまとめた詳細な資料などを揃える必要がありますが、そのような手続きについてもサポートします。 弁護士法人ALGには、交通事故および医療に詳しい弁護士が多数在籍しており、高次脳機能障害の事例も多く取り扱っていますので、お困りの際にはぜひ一度ご相談ください。

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