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びまん性軸索損傷の解説│症状や後遺障害など

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 谷川 聖治
監修 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates執行役員
監修 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates執行役員
愛知県弁護士会所属。私たちは、弁護士名、スタッフを擁し()、東京、を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。

交通事故で頭部外傷を負うと、びまん性軸索損傷(びまんせいじくさくそんしょう)を発症することがあります。びまん性軸索損傷は、意識消失や高次脳機能障害を引き起こし、発症した被害者やそのご家族に大きな負担をもたらします。 このページでは、びまん性軸索損傷について詳しく解説していきます。

びまん性軸索損傷とは?

そもそも「軸索」とは、脳で情報の伝達と処理を行っている神経細胞の一部であり、細長い形をした突起です。びまん性軸索損傷は、脳に回転性の外力がかかることで脳がねじれ、広範囲にわたってこの軸索が引っ張られたり、断裂したりして損傷することで生じます。脳挫傷や急性硬膜下血腫といった局所性脳損傷と違って、受傷部位の特定が難しいことが特徴的です。 主な原因は、交通事故等による頭部外傷ですが、頭部に直接外傷を負わなくても、強く揺さぶられることで発症することもあります。いずれにせよ、びまん性軸索損傷を発症するということは、重傷を負っている状態なので、迅速に病院で治療を受ける必要があります。

病院での治療

局所性脳損傷がなく、事故直後より6時間以上意識消失が続いた場合、びまん性軸索損傷と診断されます。しかし、びまん性軸索損傷に対する効果的な治療法は確立されておらず、手術療法も役に立ちません。 そのため、事故直後は他に骨折等の怪我があればそちらの治療を行い、後は集中治療室で脳圧や呼吸・循環の管理を行って、二次的脳損傷の回避に努めることになります。 一般的には、意識消失の時間が長いほど、その後の経過は不良となることが多いとされています。また、脳の深部にあり、生命維持に重要な機能の中枢が存在する脳幹に障害が生じると、最悪の場合、死に至ることもあります。

びまん性軸索損傷の症状の経過

びまん性軸索損傷は、事故直後の急性期と状態が安定している慢性期で、それぞれ特徴的な症状が現れます。

急性期

急性期では、先ほど説明したとおり、6時間以上に及ぶ意識消失が生じ、重症になるほどその時間は長くなります。 このとき脳内の軸索を損傷した箇所では、微小な出血(点状出血)が起きていることがあります。

慢性期

慢性期では、意識は回復するものの、精神症状や神経症状といった後遺症が残る場合があります。 この場合の精神症状とは、「脳外傷による高次脳機能障害」のことであり、詳しくは後述します。 神経症状としては、小脳失調による失調性構音障害(言葉がうまく発音できない状態)や起立・歩行の障害(ふらつき歩行、起立・歩行困難等)が生じます。また、筋肉が硬直する痙性麻痺(片麻痺や左右差のある四肢麻痺)も起こりやすくなります。 慢性期の画像検査では、脳の萎縮が認められることがあります。脳委縮は早ければ受傷から1週間程度で始まり、3ヶ月程度で停止するといわれています。

びまん性軸索損傷の診断にはMRI検査が必要不可欠

頭部外傷を負うと、一般的にまずはCT検査が行われます。CT検査で特に脳出血が認められないにもかかわらず意識消失が続く場合、MRI検査も行われます。MRI検査は微小な出血の診断に適しており、この検査によってびまん性軸索損傷による異常が見つかることがあります。ただし、微小な出血は、時間の経過とともに吸収されたり広がったりしてしまうため、MRI検査は事故直後に行うことが肝心となります。 また、びまん性軸索損傷では脳委縮が起こり得るため、脳委縮が停止する事故3ヶ月後ぐらいに再度画像検査を行う必要があります。脳委縮は、脳内部の空間である脳室や脳表面のしわである脳溝が拡大しているかどうかで判断します。ただし、脳委縮は加齢によっても生じるため、事故3ヶ月後の画像だけでは明確な異常が認められないことがあります。そのため、診断の際には事故直後と事故3ヶ月後の画像を比較します。 これらの画像は、後遺障害等級認定の申請や示談交渉の際に、びまん性軸索損傷を発症したことを立証するための資料となるので、大変重要です。

びまん性軸索損傷で請求できる慰謝料の種類

びまん性軸索損傷で治療を行うと、入通院を強いられた精神的苦痛に対して、「入通院慰謝料」を請求することができます。 また、治療を尽くしても高次脳機能障害のような後遺症が残ってしまった場合、後遺障害等級認定の申請をして、後遺障害等級が認められれば、「後遺障害慰謝料」を請求することができます。

後遺障害等級認定の申請方法

自賠責保険における後遺障害等級は、介護を要する後遺障害の場合は自賠法施行令別表第1の1級か2級、それ以外の場合は自賠法施行令別表第2の1級から14級に分かれていて、どちらも1級が最も重症になります。

高次脳機能障害

高次脳機能障害は脳に損傷を負うことで発症し、「新しいことが覚えられない」「同時に複数のことを処理できない」といった認知障害や、「状況に合わせた適切な行動がとれない」「マナーやルールを守れない」といった行動障害、「自発性が低下する」「怒りっぽくなる」といった人格変化が典型的な症状として現れます。 労災保険の後遺障害等級認定の審査においては、「意思疎通能力」「問題解決能力」「作業負荷に対する持続力・持久力」「社会行動能力」の4つの能力に着目し、それぞれの能力がどの程度喪失されているかを評価します。 高次脳機能障害は症状が複雑で多岐にわたるうえ、見た目にはわかりにくく、発症した本人も自己洞察力の低下のために症状の存在を否定することがあり、見過ごされやすい障害といえます。 高次脳機能障害について詳しく知りたい方は、下記のページを参照してください。

高次脳機能障害|記憶障害をはじめとする8つの症状

高次脳機能障害の後遺障害等級と慰謝料 高次脳機能障害で認められる可能性がある後遺障害等級は、自賠法施行令別表第1の1級・2級、別表第2の3級・5級・7級・9級になります。また、高次脳機能障害としては認められなくとも、何らかの神経症状があれば、別表第2の12級・14級に認定される可能性があります。 後遺障害慰謝料は、後遺障害等級ごとにその金額が決まっており、等級が高いほど金額も高くなります。 また、慰謝料を算出する際には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準という3種類の算定基準のうちのどれかを適用することになっており、同じ等級であっても適用する基準によって、後遺障害慰謝料の金額は変わってきます。 3つの算定基準のうち、基本的に慰謝料の相場が最も低額になるのは自賠責基準で、反対に最も高額になるのが弁護士基準です。高次脳機能障害で認められる可能性がある後遺障害等級における後遺障害慰謝料の相場が、自賠責基準と弁護士基準でそれぞれいくらになるか下表にまとめたので、参照してください。なお、任意保険基準については、保険会社によって基準が異なるので記載を省略しています。

等級 自賠責基準 弁護士基準
自賠法施行令別表第1 1級1号 1600万円 2800万円
2級1号 1163万円 2370万円
自賠法施行令別表第2 3級3号 829万円 1990万円
5級2号 599万円 1400万円
7級4号 409万円 1000万円
9級10号 245万円 690万円
12級13号 93万円 290万円
14級9号 32万円 110万円

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びまん性軸索損傷の慰謝料の計算例

それではここで、びまん性軸索損傷により残った後遺症である高次脳機能障害が、後遺障害等級3級3号に認定された場合の慰謝料を計算してみましょう。 治療期間については、入院期間5ヶ月(150日)、通院期間15ヶ月(450日)、実通院日数240日と設定します。

自賠責基準の計算例

<入通院慰謝料>

自賠責基準では、「4200円×対象日数」という計算式で入通院慰謝料を算出します。対象日数は、以下の2つのうちどちらか少ない方を採用します。
①入院期間+通院期間
②(入院期間+実通院日数)×2

例示した治療期間を当てはめてみると、以下のとおりとなります。
①150日+450日=600日
②(150日+240日)×2=780日
よって、対象日数はより少ない①600日を採用します。

以上より、4200円×600日=252万円となりますが、残念ながらこの金額をそのまま入通院慰謝料として請求できるわけではありません。 自賠責保険では、保険金に限度額が定められており、傷害による損害に対しては120万円までしか支払われません。傷害による損害に対する賠償費目には、入通院慰謝料の他、治療関係費や休業損害等が含まれています。 今回の例では、治療期間が長期にわたっているため、治療関係費や休業損害も高額になることが予想されます。そのため、入通院慰謝料としての取り分は、120万円よりもさらに低額になってしまうでしょう。

<後遺障害慰謝料>

自賠責基準の場合、後遺障害等級3級3号の後遺障害慰謝料の相場は、829万円となります。

弁護士基準の計算例

<入通院慰謝料>

弁護士基準では、一般的に「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称:赤い本)」に掲載されている算定表を使って、入通院期間をもとに入通院慰謝料を算出します。 算定表には2種類あり、通常の怪我の場合(別表Ⅰ)と軽い怪我の場合(別表Ⅱ)で使い分けます。今回の例では、後遺障害等級3級3号の高次脳機能障害と認定されているため、通常の怪我の場合に使用する別表Ⅰの算定表を参照します。

通常の怪我の場合【別表Ⅰ】

通常の怪我の場合【別表Ⅰ】
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 AB 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 314 321 328 334 340
1月 28 77 122 162 199 228 252 274 291 303 311 318 325 332 336 342
2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 322 329 334 338 344
3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 326 331 336 340 346
4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 328 333 338 342 348
5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 330 335 340 344 350
6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 332 337 342 346
7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 334 339 344
8月 132 164 194 222 248 270 290 306 318 326 331 336 341
9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 338
10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335
11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332
12月 154 183 211 236 260 280 298 314 326
13月 158 187 213 238 262 282 300 316
14月 162 189 215 240 264 284 302
15月 164 191 217 242 266 286

入院期間5ヶ月、通院期間15ヶ月に該当する列と行が交差するところの額が286万円となっているため、この金額がそのまま入通院慰謝料となります。 ただし、今回の例では、後遺障害等級3級3号の高次脳機能障害に認定されており、比較的重度の傷害を負ったことが予想されます。赤い本では「傷害の部位、程度によっては、別表Ⅰ(通常の怪我の場合)の金額を20~30%程度増額する」とあるため、上記の金額からさらに増額する可能性があります。 仮に20%の増額が認められたとすると、入通院慰謝料は、286万円×1.2=343万2000円となります。 いずれにせよ、自賠責基準で算出した入通院慰謝料に比べると、かなり高額になっていることがわかります。

<後遺障害慰謝料>

弁護士基準の場合、後遺障害等級3級3号の後遺障害慰謝料の相場は、1990万円となります。 こちらも自賠責基準で算出した後遺障害慰謝料に比べると、かなり高額になっていることがわかります。

びまん性軸索損傷のまとめ

びまん性軸索損傷を発症すると、意識消失から回復して無事に退院できたとしても、高次脳機能障害や歩行障害といった後遺症が残ってしまう可能性が高くなります。特に高次脳機能障害は見過ごされやすい障害であり、被害者本人やその家族には日常生活で様々な負担が生じてしまうため、社会的な援助が不可欠です。 そのような複雑な後遺症が残ってしまった場合は、せめて症状の程度に見合っただけの損害賠償金を加害者に請求したいところです。 しかし、高次脳機能障害の後遺障害等級の認定基準はあいまいであるため、どのような検査を行って、どのような内容の後遺障害診断書を医師に作成してもらい、どのような資料を申請時に添付するかによって、獲得できる等級が変わってくる可能性があります。症状の立証が不十分だと、実際よりも低い等級に認定されてしまうことも考えられます。 交通事故案件を多く取り扱っていて、医療にも詳しい弁護士であれば、高次脳機能障害で適正な後遺障害等級に認定されるためのノウハウを心得ているため、損害賠償金が増額する可能性も高まります。交通事故後に高次脳機能障害が疑われる場合は、まず一度弁護士に相談してみることをお勧めします。

びまん性軸索損傷の裁判例

【大阪地方裁判所 平成26年(ワ)第2043号 損害賠償請求事件】

原告(男性・事故当時67歳)は、丁字路において横断歩道を徒歩で横断していたところ、被告が運転する自動車に衝突されて受傷し、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、右前頭葉脳挫傷、びまん性軸索損傷といった診断を受けました。 原告は治療により回復し、日常生活動作の行為自体はほとんど自立して行うことができるようになったものの、高次脳機能障害等の後遺症が残ったことから、妻や子供らによる声かけや指示を要するようになり、特に入浴や排泄については一部介助を要するようになりました。具体的には以下のような症状が認められ、自賠責保険に後遺障害等級認定の申請を行ったところ、自賠法施行令別表第1の2級1号に認定されました。

  • 自分が何歳で両親が生きているか否かがわからない
  • 新しく記憶することができないので1日中同じ話をする
  • 単純な会話で相手の言ったことの意味を取り違え、話がかみ合わなくなる
  • 自宅で身の回りのこと(服を着る、スリッパをはく、掃除機のコンセントをさす)等ができないので、常時見張ってもらう必要がある
  • 近くに出かけるときに道順がわからない
  • 公共交通機関を1人で使うことができない
  • 場所柄や状況をわきまえずに泣いたり怒ったりする

裁判所も原告の高次脳機能障害については、自賠法施行令別表第1の2級1号に該当すると判断したうえで、本件における一切の事情を考慮し、原告に対して後遺障害慰謝料2000万円の請求を認めました。 また、原告に重篤な後遺障害が残存したことにより、原告の妻や子供らは多大な悲しみを負ったとして、妻に対して固有の慰謝料200万円、4人の子供らに対して固有の慰謝料各50万円の請求を認めました。 なお、本件事故では原告に5%の過失が認められたことより、これらの慰謝料は実際にはそれぞれ5%の過失相殺がなされています。

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