びまん性軸索損傷で請求できる慰謝料とは?相場や請求時のポイント
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
この記事でわかること
交通事故で頭部に強い衝撃を受けると、“びまん性軸索損傷”を発症することがあります。 びまん性軸索損傷は、脳の神経細胞の一部である“軸索(じくさく)”が広範囲に損傷している状態で、神経伝達が妨げられることにより意識障害や認知機能低下などの症状を引き起こし、重篤な後遺障害が残る例も少なくありません。 本記事では、交通事故でびまん性軸索損傷となった場合の慰謝料に着目して、慰謝料の相場や請求時のポイントについて解説していきます。
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目次
びまん性軸索損傷で請求できる慰謝料
交通事故でびまん性軸索損傷を発症した場合、“入通院慰謝料”や“後遺障害慰謝料”の2種類の慰謝料を請求できる可能性があります。
【入通院慰謝料】
入通院慰謝料とは、事故による怪我の治療で入院・通院を強いられたことによる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。 びまん性軸索損傷の治療のためにかかった入通院期間や実通院日数に応じた慰謝料が請求できます。
【後遺障害慰謝料】
後遺障害慰謝料とは、事故によって後遺障害が残ったことに伴う精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。 びまん性軸索損傷の後遺症が後遺障害等級認定された場合に、認定された等級に応じた慰謝料が請求できます。
なお、びまん性軸索損傷では、慰謝料のほかにも次のような損害賠償の請求が可能です。
びまん性軸索損傷で請求できる慰謝料以外の損害賠償項目
- 【治療費】診察料・手術料・投薬料など、必要な治療にかかった費用
- 【通院交通費】通院の際にかかった交通費
- 【休業損害】治療により仕事を休んだことで減ってしまった収入に対する賠償金
- 【逸失利益】後遺障害により失われた将来の収入に対する賠償金
など
びまん性軸索損傷の慰謝料以外の損害賠償の項目については、以下のページをご参考ください。
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びまん性軸索損傷の入通院慰謝料の相場
びまん性軸索損傷の入通院慰謝料の相場は数十万~数百万円です。 入通院慰謝料は、入通院期間や実通院日数のほか、計算に用いる算定基準によっても金額が異なるので、上記のように慰謝料の相場に大きな幅が出ます。
<交通事故慰謝料の3つの算定基準>
- 【自賠責基準】自賠責保険が用いる、基本的な対人賠償の確保を目的とした基準
- 【任意保険基準】任意保険会社が用いる独自の基準
- 【弁護士基準】裁判所や弁護士が用いる、過去の裁判例をもとに設定された基準
任意保険基準は保険会社ごとに基準が異なるので、びまん性軸索損傷における一般的なケースの入通院慰謝料を、自賠責基準と弁護士基準とで比較してみましょう。
| 入通院期間(実通院日数) | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
|---|---|---|
| 入院1ヶ月+通院6ヶ月 (実通院150日) |
90万3000円 | 149万円 ※重傷の場合 |
| 入院6ヶ月+通院12ヶ月 (実通院日数300日) |
232万2000円 ※自賠責保険より支払われるのは上限120万円まで |
298万円 ※重傷の場合 |
いずれのケースでも、弁護士基準による慰謝料の方が高額になることがわかります。 入通院慰謝料の具体的な計算方法について、もう少し詳しくみていきましょう。
入通院慰謝料の計算方法
入通院慰謝料は、自賠責基準と弁護士基準とで、次のように具体的な計算方法が異なります。
【自賠責基準】
・以下の①と②を比較して、金額が少ない方を慰謝料の金額とします ① 日額4300円×入通院期間(事故日~怪我の完治日または症状固定日) ② 日額4300円×実際に入通院した日数×2 ・入通院慰謝料や治療費などの傷害部分に120万円の支払上限額があります
【弁護士基準】
・赤い本とよばれる書籍に記載されている“慰謝料算定表”を使用します ・算定表の通院期間と入院期間が交差する箇所の金額が求める慰謝料の相場です ・怪我の程度によって使用する算定表が異なります
交通事故の入通院慰謝料の具体的な計算方法については、以下のページもあわせてご参考ください。
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びまん性軸索損傷の後遺障害等級と慰謝料相場
びまん性軸索損傷で後遺症が残ってしまった場合、後遺障害等級に認定される可能性があります。
そもそも後遺障害等級とは?
後遺障害等級とは、事故による後遺症が自賠責保険の定める後遺障害の要件を満たす場合に、症状の部位や程度に応じて認定される等級のことです。 1級~14級に区分され、1級に近いほど症状が重くなります。
残存した後遺症について後遺障害等級が認定されると、新たに“後遺障害慰謝料”が請求できます。 びまん性軸索損傷で等級認定された場合の後遺障害慰謝料の相場は、110万~2800万円です。 次項からは、びまん性軸索損傷の後遺障害として問題になることの多い“高次脳機能障害”と“遷延性意識障害”について、それぞれ詳しく解説していきます。 びまん性軸索損傷の後遺障害の症状について詳しくお知りになりたい方は、以下のページをご参考ください。
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高次脳機能障害の場合
高次脳機能障害とは、脳が損傷し、言語・思考・記憶・学習・注意・判断を行う知的な機能に障害が起きた状態をいいます。 記憶障害・遂行機能障害・社会的行動障害など、高次脳機能障害の症状は様々です。 残存した症状に応じて、1級・2級・3級・5級・7級・9級・12級・14級の後遺障害等級が認定される可能性があります。 それぞれの等級ごとの慰謝料相場は、以下表のとおりです。
| 後遺障害等級 | 自賠責基準※ | 弁護士基準 |
|---|---|---|
| 【要介護】1級1号 | 1650万円 | 2800万円 |
| 【要介護】2級1号 | 1203万円 | 2370万円 |
| 3級3号 | 861万円 | 1990万円 |
| 5級2号 | 618万円 | 1400万円 |
| 7級4号 | 419万円 | 1000万円 |
| 9級10号 | 249万円 | 690万円 |
| 12級13号 | 94万円 | 290万円 |
| 14級9号 | 32万円 | 110万円 |
高次脳機能障害については、以下のページで詳しく解説していますのであわせてご参考ください。
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遷延性意識障害の場合
遷延性意識障害とは、脳が損傷したことで重度の昏睡状態・意識障害が長く続いている状態を指します。いわゆる“植物状態”のことです。 常に介護を要するため、後遺障害等級で最も重い1級1号が認定されます。 後遺障害1級1号の慰謝料相場は、以下表のとおりです。
| 後遺障害等級 | 自賠責基準※ | 弁護士基準 |
|---|---|---|
| 【要介護】1級1号 | 1650万円 | 2800万円 |
びまん性軸索損傷の治療を続けても症状が改善せず、「自力での移動ができない」、「目で物を追うことはあっても認識することはできない」などの一定の条件を満たす状態が3ヶ月以上持続すると、遷延性意識障害と判断されます。 遷延性意識障害(植物状態)の後遺障害と慰謝料について、詳しくは以下のページでも解説していますので、あわせてご参考ください。
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びまん性軸索損傷で適切な慰謝料を請求するためのポイント
びまん性軸索損傷は、事故後の日常生活に大きな影響を及ぼします。 被害者ご本人やご家族の不安や負担を少しでも軽減するため、「適切な慰謝料を請求するために押さえておきたいポイント」を紹介します。
MRI検査をする
びまん性軸索損傷の慰謝料請求において、MRIは非常に重要な検査です。 びまん性軸索損傷は、損傷が広範囲にわたることから損傷部位の特定が困難です。 また、事故直後に意識障害や認知機能低下などの症状があるにもかかわらず、CT検査で明確な異常が認められないことも多いです。そのため、より精度の高いMRI検査を行い、軸索損傷や微細な出血を特定する必要があります。 びまん性軸索損傷では、時間が経過すると脳室拡大や脳委縮が生じる事例もあるので、事故直後と事故後の画像を比較できるよう、定期的に画像検査を受けることも大切です。
適切な頻度で通院する
適切な頻度での通院はとても大切です。 保険会社から通院頻度を根拠に慰謝料を低く見積もられる可能性があるためです。 びまん性軸索損傷は、定期的な検査やリハビリが必要になるため、通院期間が長くなる傾向にあります。 通院やリハビリを負担に感じたり、認知障害によって「自分はもう大丈夫」と思い込んだりして、勝手に通院回数を減らしてしまうと、軽傷とみなされて慰謝料を減額されるおそれがあります。 だからといって、医師の指示なく過剰に通院しても、通院の必要性・相当性が疑われて慰謝料の増額にはつながりません。 大切なのは、医師の指示に従って適切に通院することです。 医師の指示に疑問がある場合は、セカンドオピニオンや弁護士への相談を検討しましょう。
弁護士へ依頼する
びまん性軸索損傷で適切な慰謝料を請求するためには、弁護士への依頼も検討しましょう。 保険会社から提示された慰謝料に対して、被害者自らが弁護士基準で請求しても応じてもらえる可能性は限りなく低いです。 一方、弁護士に依頼すれば、弁護士基準に基づいた請求や交渉をスムーズに進められ、慰謝料の増額が期待できます。 ほかにも、弁護士に依頼することで次のようなメリットも得られます。
- 通院頻度や、必要な治療・検査についてアドバイスが受けられる
- 適切な後遺障害等級認定が獲得できるようにアドバイスが受けられる
- 適切な過失割合を主張できる
- 保険会社とのやりとりを任せられる など
画像所見が乏しいなかでびまん性軸索損傷の後遺障害が認められた裁判例
【平20(ワ)113号 名古屋地方裁判所 平成24年2月24日判決】
<事案の概要>
バイクの後部座席に乗車していた被害者が、交差点で右折してきた加害車両と衝突し、左尺骨骨折や頭部外傷などの重傷を負った事案です。 被害者は、「事故によって記憶力や感情コントロールの障害等の高次脳機能障害の後遺症が残った」として損害賠償を求めました。 これに対して加害者は「意識障害の程度は低く、頭部外傷を裏付ける画像所見もなく、事故による高次脳機能障害とは認められない」と主張しました。
<裁判所の判断>
裁判所は、限定的ではあるもののMRIやSPECT検査においてびまん性軸索損傷の可能性が示唆されることや、事故後の意識消失・記憶障害があること、症状の経過、家族の証言、生活状況などを総合的に評価し、「事故による高次脳機能障害が残った」と判断しました。 事故との因果関係を肯定したうえで、高次脳機能障害について後遺障害等級7級を、ほかの障害を含め併合6級を認定しました。 これらを踏まえ、後遺障害慰謝料1180万円を認定し、最終的な損害賠償額として約7910万円と年5%の遅延損害金の支払いを命じました。
びまん性軸索損傷の慰謝料については弁護士法人ALGまでお気軽にご相談ください
びまん性軸索損傷は重篤な症状が出ることも多い大きな怪我です。しかし、画像所見による診断が難しいという特徴があり、本当にびまん性軸索損傷があるのか争われやすい傾向にあります。 びまん性軸索損傷の後遺障害である高次脳機能障害についても、症状が多様であることに加え、交通事故による後遺障害として認められにくいという現状があります。 そのため、治療段階から、医学知識のある弁護士に相談されるのがおすすめです。 医療問題に精通した弁護士へ依頼すると、被害者ご本人やご家族の方の負担を少しでも減らすことができます。ぜひ弁護士への相談をご検討ください。
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