交通事故の示談書とは?テンプレートと正しい書き方を解説

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
交通事故の示談で、示談内容に合意できたら「示談書」を作成します。 一般的には、加害者が任意保険会社に加入していれば加害者側の任意保険会社が作成をします。 示談書は一度署名・捺印をしてしまうと、基本的に後からやり直しがきかないため、示談書にサインするまでに内容が正しいか確認することが大切です。 「保険会社から送られてきた示談書にサインしていいか分からない」 「自分で示談書を作成したい」 この記事では、このようなお悩みをお持ちの方に向けて、示談書はいつ誰が作成するか、示談書の書き方などを解説していきます。
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目次
交通事故の「示談書」とは?
示談とは、交通事故の当事者間に生じたトラブルについて、裁判所の手続きを踏まずに当事者同士の話し合いにより解決する方法です。 示談書とは、その話し合いで合意した内容を書き留めた書類のことです。 示談交渉、示談書の取り交わしと進む中で、示談金がいつ入金されるか不安な方もいらっしゃるでしょう。基本的に、示談金は示談書作成後、当事者双方が署名・捺印してから支払われます。 早く示談金を受け取りたいからと、示談書の内容を見ず署名・捺印してしまうことは大変危険です。損な示談内容となっている場合もありますので、示談書が届いたらまずは内容を確認しましょう。 交通事故の示談については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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なぜ示談書は必要か?
示談は口頭でもできますが、口頭では後から「言った・言わない」の争いになることも考えられます。 そのため、示談が成立したら示談書として文書に残しておくことが安心です。 示談書は当事者双方が合意した内容を記載し、当事者が署名捺印した書面であるため、法的効力があります。 示談内容が守られず、裁判となった場合、示談書は当事者間に示談内容通りの合意が成立していたことを証明する客観的な証拠書類となります。
示談書は誰が作成するのか?
示談書の作成は、被害者・加害者が任意保険に加入しているかによって異なります。 下表のように、加害者が任意保険会社に加入している場合は加害者側の保険会社が作成をします。 しかし、双方が任意保険に加入していない場合は、当事者が作成しなければなりません。 次項からはそれぞれのパターンについて詳しく解説していきます。
任意保険の加入状況 | 示談書の作成者 |
---|---|
加害者が任意保険に加入している | 加害者側の保険会社 |
被害者・加害者の双方が任意保険に加入していない | 加害者もしくは被害者 |
加害者が任意保険に加入している場合
加害者が任意保険に加入しているケースでは、多くの場合、加害者は加入している任意保険会社の示談代行サービスを利用します。そのため、加害者側の任意保険会社が示談書を作成することが多くなるでしょう。 加害者側保険会社から示談書が届いたら、すぐに署名・捺印をせず内容を確認しましょう。 過失割合は間違っていないか、慰謝料を含む損害賠償項目に漏れはないか、金額は正しいかを確認しましょう。 内容に納得がいかない部分があれば、保険会社と交渉することになりますが、交渉には論理的な主張が必要となり、被害者の負担も大きくなってしまうため、弁護士に相談することをおすすめします。
【示談書作成の流れ:相手が保険会社】
- ① 示談内容が確定する
- ② 加害者側の保険会社が示談書を作成する
- ③ 加害者が署名・捺印する
- ④ 被害者が任意保険会社の示談代行サービスを利用している場合は、示談書が被害者側の任意保険会社に渡される
- ⑤ 被害者が署名・捺印する
- ⑥ 被害者・被害者側の保険会社、加害者・加害者側の保険会社がそれぞれ示談書を保管する
交通事故の示談金の相場については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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被害者・加害者の双方が任意保険に加入していない場合
加害者が任意保険に加入していない場合は、事故当事者のどちらかが示談書を作成しなければなりません。 示談書には支払い期日などを記載する必要があるため、一般的には支払い責任のある加害者が作成することになるでしょう。 しかし、加害者が示談書の作成に消極的な場合は、被害者が示談書を作成することもあります。 そのような場合は、弁護士に示談書の作成を依頼することも可能です。ご自身で作成する際には、記入漏れや法的に正しい文書であるか不安なことも多いでしょう。交通事故に詳しい弁護士であれば、記載内容を熟知しており、また法律の専門家であることから適切な文書の作成が可能です。 また、被害者のみが任意保険に加入している場合は、任意保険会社が示談書を作成してくれることもあります。 交通事故で無保険の場合の示談に関しては以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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示談書はいつ作成するのか?
示談書を作成するタイミングは、当然ながら示談内容に双方が合意したあとです。 示談交渉は通常、損害賠償額が確定してから行われます。全ての損害賠償額が確定し、「これ以上新たな損害が出ない」という状態になってから示談交渉をしないと、示談締結後に新たな損害が出たとしても、基本的にやり直しができず、損をしてしまうからです。 事故様態による示談交渉開始時期については下表をご参考ください。
怪我をしてしまった場合 | 事故による怪我が完治したとき |
---|---|
後遺障害が残った場合 | 後遺障害等級が確定したとき |
死亡事故の場合 | 四十九日の法要が終わったとき |
保険会社から示談書が届くまでの期間は?
示談書は、通常は合意から数日~1週間程度で届くでしょう。 手続きの関係上、示談書の準備に時間がかかる場合もあり得ます。 もし、あまりにも示談書が届くまでに時間がかかるようであれば、任意保険会社に問い合わせるなどして、現状を確認してみましょう。
示談書のテンプレートと書き方
各保険会社が独自に示談書のテンプレートを所有していますが、記載事項に大きな違いはありません。 ご自身で作成する際には、納得のいく示談金を受け取るためも、記入漏れや不備が無いように作成する必要があります。ご不安な方は弁護士にご相談ください。 次項からは示談書に記載するべき内容について解説していきます。
①当事者の特定
事故の当事者として、加害者・被害者について以下のことを記載します。
- 名前
- 住所
- 車両番号 など
事故を起こした運転者と車の所有者が異なる場合は、車両の所有者の記載も必要です。 なお、被害者が歩行者や自転車の運転者の場合は、車両登録番号の記載は不要です。
②事故の詳細
どの事故について示談したのか特定するために、以下のような事故の詳細を記載します。
- 事故の発生日時
- 事故の発生場所
- 事故の発生状況
事故の詳細は、交通事故証明書を参考しにし、簡潔に記載しましょう。 交通事故証明書は「自動車安全運転センター」で発行してもらうことができますが、交通事故を警察に届けていないと証明書は発行されないので注意しましょう。
③示談条件
示談条件として、以下のような情報を記載します。
- 既払い金:治療費など、すでに支払いを受けた金額
- 示談金額:最終的に支払いを受ける金額
- 支払い方法:口座振込か現金か、一括払いか分割払いかなど
- 支払い期日:目安としては、示談成立から30日程度
【示談金額】
示談金額は、損害額から過失相殺分と既払い金を控除した金額となります。過失相殺とは、被害者の過失割合に応じて、最終的に支払われる金額が減ることをいいます。 示談金額の内訳は、示談書の別紙にまとめられることが多いです。
【支払い方法】
示談金の支払い方法は、示談の相手が保険会社の場合は基本的に一括払いとなります。 示談の相手方が加害者本人である場合は、分割払いとなることもあります。 分割払いの場合は、分割回数や1回の支払い金額を記載するようにしましょう。
④支払いが滞ったときの違約金
示談の相手が保険会社の場合、示談金の支払いが遅れることは基本的にありません。しかし、相手が加害者本人である場合、きちんと支払ってくれない可能性もあります。 そのため、支払いが期日までに行われなかった場合を想定して、違約金の記載をしておきましょう。
【違約条項】
例えば以下のような違約条項を記載しておくと安心です。
- 支払いが一定回数以上滞った場合には、残金を一括で支払うこと
- 支払いが遅れた場合、違約金を加算して支払うこと
後日、催促をする場合もあるため、加害者の住所・氏名などに漏れがないか確認することも大切です。
⑤後遺障害が生じたときの留保事項
まれに示談後に、示談締結時には予測できなかった、新たな後遺障害が発覚する場合があります。 このようなケースに備え、「後から後遺障害が発覚した場合は改めて協議をする」といった趣旨の留保条項を記載しておくことで、不測の事態に対応しやすくなります。
⑥清算条項
清算条項は「お互いにもうこれ以上の金銭の請求などを行わない」といった趣旨を記載します。 これを記載することによって「加害者も被害者もこれ以上事故に関する金銭を請求しない」と示すことができ、示談書を交わした後のトラブル発生を防ぐことができます。
⑦署名・捺印
示談書には、加害者と被害者両方の署名・捺印が必要です。 署名・捺印には次の2つの意味が込められています。
- ① 示談書を作成した人が実際の加害者・被害者であるという同一性の確認
- ② 加害者、被害者双方ともに示談書に記載されている内容に合意したという真意を確認するため
なお、署名・捺印する前に、必ず記載内容に間違いがないことを確認しましょう。
示談書のタイトルや形式に決まりはあるか?
加害者が任意保険に加入している場合は、各保険会社のテンプレートを使用することになります。 しかし、何らかの事情で被害者の方が示談書を作成しなければならない場合もあるでしょう。その場合、示談書に決まった書式はありません。サイズや枚数についても決まりはありません。 しかし内容については、適切であるかの判断が難しいため、弁護士に相談すると良いでしょう。 また、タイトルが「承諾書」「和解書」「合意書」となっていることもありますが、基本的に効果は同じです。
「免責証書」という名称の書類が送られたら
交通事故の損害が確定すると、相手方保険会社から「免責証書」という書類が届くことがあります。 免責証書は示談書の一種であり、同じようなものと考えてよいでしょう。違いがあるとしたら、示談書は書面上に被害者と加害者の双方が署名・捺印します。 これに対し、免責証書は被害者のみが署名・捺印します。免責証書の方が、手続きが簡単ですぐに作成できるため、示談金の支払いが早くなるというメリットがあります。しかし、免責証書は被害者に一切過失がなく、被害者のみが示談金を受け取る場合で、かつ、支払元が保険会社の場合に限ります。 そのため、加害者が無保険の場合は示談書を作成することになります。
示談金を確実に支払ってもらうためにできること
加害者が任意保険に加入していれば、示談金は保険会社から一括で支払われるため示談金の支払いが遅れる心配はありません。しかし、加害者が任意保険に未加入の場合は、支払いがされない、支払いが遅れる、などのおそれがあります。 示談金を確実に支払ってもらいたいという気持ちは当然のことですから、加害者が保険に未加入の場合は以下の対策を取りましょう。
- ① 示談書を公正証書にする
- ② 連帯保証人を付けてもらう
次項でそれぞれについて解説していきます。
示談書を公正証書にする
公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公文書です。示談書を公正証書に残すことで、示談で合意した内容や、加害者の支払い義務について明確な証拠を残すことができます。 公証人には元裁判官などの法律の専門家が就くため、法律上問題のない公正証書を作成することができます。 また、公正証書は原本を公証役場に保管します。そのため、改ざんや偽造の心配がありません。 示談書を公正証書にするメリットとして、「強制執行認諾文言付き公正証書」にすることで、加害者が示談金の支払いをしなかったり、遅れた場合に、強制執行の申立てをすることで直ちに財産を差し押さえることができます。 公正証書を作成する際は、2回公証役場に行く必要があります。初回は被害者だけでも構いませんが、2回目は公正証書の受け取りのため、被害者・加害者がそろって赴く必要があります。加害者と顔を合わせたくないような場合は弁護士に代理人になってもらい、受け取りに行ってもらうことも可能です。
連帯保証人を付けてもらう
加害者が未成年であったり、複数いたりする場合は、支払いが滞る可能性があるため、連帯保証人を付けてもらうことも有効です。 連帯保証人とは、「主たる債務者と連帯して債務を負担した」人をいいます(民法第454条第1項)。 つまり、示談金を支払う義務のある加害者が、支払いをしなかった場合に、連帯保証人に対して損害賠償請求ができるということです。 連帯保証人は加害者の親族がなることが多いですが、口約束では不安が残るため、示談書や公正証書に「連帯保証条項」を記載しましょう。 連帯保証条項を記載することで、被害者は加害者と連帯保証人のどちらにも全額の損害賠償請求が可能となります。 連帯保証条項を設ける場合は、連帯保証人にも署名・捺印してもらいましょう。
示談書は自分で作成できる?弁護士に依頼するメリットとは
示談書はご自身でも作成が可能ですが、弁護士に依頼することで以下のようなメリットがあります。
●相手方から提示される示談内容が適切か判断できる
加害者側保険会社は自社の損失を少しでも減らすために、示談金を相場より低くしたりすることがあります。 弁護士であれば、各項目の正しい計算方法や、変更できる見込みがあるかを精査し、示談内容が適切か判断してもらえます。
●不備や漏れの無い示談書を作成できる
示談書には、清算条項、留保条項、違約条項など、法律に詳しくなければ正しい書き方が分からない項目がいくつかあります。弁護士であれば、法律の専門家として示談書の作成に慣れているため、不備や漏れの無い示談書を作成することができます。
●示談金が増額する可能性がある
交通事故の損害賠償を算出する基準は3つあり、その中でも最も高額となるのが「弁護士基準」です。この基準は主に弁護士や裁判所が用いる基準であるため、弁護士に依頼することで、相手方保険会社から提示された示談金より高額になる可能性があります。
●示談書の作成だけでなく、示談交渉も任せられる
相手方との示談交渉は、保険会社の対応が悪かったり、加害者が交渉に応じなかったりと被害者の方に少なからずストレスを与えます。弁護士であれば、代理人として示談交渉を任せることができ、スムーズに示談交渉が進む可能性が高まります。
提示された示談書について弁護士が反論した結果、適切な賠償金を獲得できた事例
本件は、被害者(ベトナム人)が知人の運転するトレーラーに同乗していたところ、自損事故を起こし、被害者が死亡してしまったという事故です。 あるとき被害者の配偶者である依頼者(ベトナム人)のもとに、相手方(被害者の知人の運転手)から押印した記憶のない示談書が送られ、自賠責保険金は支払うものの、示談済であるとしてこれ以上の支払いはしないと連絡があり、どのように対処すべきか当事務所にご相談されました。 担当弁護士は、その「示談書」を検討したところ成立日や内容からして死亡事故の示談として到底考えられない内容となっていました。示談書が有効なものではないことを相手方に主張しましたが、相手方は示談書が存在する以上、交渉では解決できないとの回答であったため、裁判を提起することにしました。 裁判では、担当弁護士が刑事事件記録に書かれた相手方の供述内容と示談書の内容が整合していない等の反論を講じ、最終的には約2500万円の賠償金を支払ってもらう内容で和解が成立しました。
示談書に関するQ&A
一度取り交わした示談書が無効になるケースはありますか?
以下のケースでは、一度取り交わした示談書が無効になる場合があります。
●公序良俗に反する示談
「公序良俗」とは、公共の秩序を守るための社会の道徳的観念をいいます。例えば、被害者に知識や経験がなく、困っているところに付け込んで、適正ではない、明らかに著しく低い示談金で示談をした場合が当てはまります。
●錯誤による示談
錯誤とは、重要な事項に関しての思い違いをいいます。錯誤が法律行為の重要な部分に当たり、もしも錯誤がなければその法律行為は誰であってもすることはあり得ないとされる場合、示談の取り消しが可能となります。
●詐欺または脅迫による示談
示談をする際に、相手に騙された、もしくは脅迫され仕方なく示談に応じた場合は示談を取り消すことが可能です。
交通事故の示談書の保管期間について教えて下さい。
示談書は、少なくとも確実に示談金を受け取るまでは保管しておきましょう。 特に相手が保険会社ではなく加害者個人の場合は、示談金の支払いを分割払いにしているケースもあります。途中で支払いがされなくなった場合に裁判の証拠として示談書が必要になることもありますので、支払いが確実に終了するまでは保管しておくようにしましょう。 また、「後遺障害が発生した場合は別途支払う」などの留保条項を設けている場合は、少なくとも怪我が完治するまでは示談書を保管しておくべきです。
物損事故の加害者が「任意保険を使わない」と言っています。示談書は誰が作成するのでしょうか?
加害者が任意保険の適用を拒否する場合、交渉は被害者と加害者の個人になりますので、一般的には支払い義務のある加害者が示談書を作成します。
加害者が物損事故で保険適用をしたくないのには以下のような理由があります。
① 保険を適用すると等級が下がり、翌年度の任意保険料が高くなってしまうから
② 物損事故は損害額が少ないケースもあるため、結果的に損する可能性があるから
保険会社ではなく個人で作成される示談書には、不備や漏れがある可能性もあるため、相手方から示談書が送られてきた場合には、内容が適切であるか弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故の示談書で不明点があれば、弁護士までお気軽にご相談下さい
交通事故の示談書は適切に示談金を支払ってもらうためにも、重要な書類ですが、個人が作成する場合には注意が必要です。 示談書はインターネットにもテンプレートや作成の仕方が記載されており、簡単に作成できると思われるかもしれませんが、事故の状況により示談書に記載する内容も変わってきます。 また、相手方が作成した示談書が適切であるか判断することも難しいことでしょう。 示談書の作成は私たち弁護士法人ALGにご相談ください。 私たちは交通事故に詳しい弁護士が多数在籍しております。これまで数多くの交通事故案件に携わってきた弁護士だからこそ、有効な示談書の作成や相手方が作成した示談書が適切であるかを判断することが可能です。 また、示談書を公正証書にしたい、交渉を任せたいなど様々なお悩みにも対応していますので、示談書についてお困りの際はお気軽にご相談ください。