公務員の休業損害|請求できるケースや病気休暇との関係

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
この記事でわかること
一般的に、給与所得者の方は、交通事故に遭って休業することになり、給与が減額されたときに休業損害を請求できます。 しかし、休業の仕組みが一般企業と異なる公務員の方の場合は、休業損害が認められるか否か、注意が必要となってきます。 このページでは、公務員の方の休業損害請求について、詳しく解説していきます。
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目次
公務員でも休業損害の請求は可能か?
休業損害とは、“交通事故によって働けず収入が減少したことを理由に認められる損害”です。 被害者である以上、公務員であっても休業損害は請求できます。しかし、公務員の場合は、会社員と比べて福利厚生制度に恵まれていることから休業損害が認められにくい傾向にあります。 なぜなら公務員は、福利厚生で病気休暇制度や休職制度が利用できるため、仕事を長期で休んでも減収しなかったり、減収額が少なく済んだりすることが多く、「事故による減収は発生していない」と判断されるからです。 もっとも、実際に病気休暇で支給されなかった付加給や病気休暇とは別に有給休暇を使用した場合、賞与・昇給に影響した場合などには、それらを立証する必要はあるものの、休業損害として請求することができます。
公務員が休業損害を請求できるケース
病気休暇制度ではなく有給休暇を取得した場合
病気休暇制度ではなく有給休暇を取得した場合は、自由に使用できる権利を不本意に使わされたとして、休業損害を請求することができます。 公務員であれば、有給休暇とは別に病気や怪我で最大90日間の病気休暇を取得することができ、かつその間の給与も満額支給される“病気休暇制度”を利用することができますが、「給与が満額支給されるため保険会社から休業損害と認められにくい」、「有給休暇と違い自由に取得できない」などといったデメリットがあるのも実情です。 また、病気休暇制度を利用するには、以下2つの点が要件となります。
《病気休暇制度の要件》
・怪我や病気のために療養の必要があること
・療養のために勤務しないことがやむを得ないと認められること
有給休暇を使用した場合の休業損害の請求方法については、以下のページにて詳しく解説しております。 ぜひあわせてご参考になさってください。
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付加給の支払いがない場合
通常、病気休暇中は、基本給と一定の諸手当(例:扶養手当、地域手当、住宅手当)のみが支払われ、付加給(例:通勤手当や管理職手当等)の支給はありません。 ただし、本来であれば支払われていたはずの付加給が、事故に遭い、病気休暇を取得したことによって支払われなかったという場合には、その付加給分を休業損害として請求することが可能です。 さらに、事故の怪我の影響で長らく仕事を休んでいたことが、昇給の見送りや賞与額の減少に繋がってしまった場合には、それらの事実を資料等で証明することができれば、これもまた休業損害として認められ得るでしょう。
病気休暇が90日を超過した場合
90日の病気休暇期間を経ても仕事ができない状態であれば、“休職制度”の利用に移行します。休職制度では、病気休暇制度とは異なり給与は満額支給されないため、差額分を休業損害として請求することが可能です。 休職制度による休職可能な期間(=休職後、復職ができる期間)は最長3年で、最初の1年間は給与の80%相当額が支給されます。休職して1年経過した後は給与が無支給となるものの、1年半は健康保険から「傷病手当金」が、さらに半年間は「傷病手当附加金」がいずれも給与の2/3相当額が支給されます。 休職期間中であっても一定額の給与や手当が支給されますが、満額支給ではないため、支給されなかった分を休業損害として請求します。
賞与が減額した場合
仕事を休んだことで出勤日数が減り、公務員の賞与である勤勉手当が減額された場合には、減額分を休業損害として請求することができます。 なお、賞与の減額分を休業損害として請求するためには、勤務先に“賞与減額証明書”を作成してもらう必要があります。
公務員でも実際に賞与は減額されるの?
公務員は、期末手当と勤勉手当の合算が賞与の金額となります。病気休職制度を利用している場合には、期末手当については減額されませんが、勤勉手当は減額の対象となります。 賞与が減額した場合の休業損害について、以下のページではさらに詳しく解説しております。 ぜひあわせてご覧ください。
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昇給が遅れた場合
事故による休業が続いた場合、出勤日数の関係で翌年の昇給に影響が生じるおそれがあります。実際に昇給が遅れ、法律相談に来られる方も少なくありません。 このような場合には、以下の点を勤務先に証明してもらうことで休業損害として請求できる可能性があります。
- 本来であれば昇給があったが、事故が原因で昇給できなかったこと
- 昇給できなかったことが、事故による休業が原因であること
なお、証明の仕方は自由ですので、勤務先へはその旨を伝えて作成を依頼しましょう。
公務員の休業損害の計算方法
休業損害の計算にあたっては、採用する算定基準によって、“休業1日あたり支払われる金額”が変わってきます。 以下、『自賠責基準』と『弁護士基準』の計算式の基本的な違いをみてみましょう。
自賠責基準
【式】1日あたり6100円※×休業日数
自賠責基準による休業損害の計算方法は、上記の式を用いて計算します。 被害者の職業にかかわらず、原則として1日あたりの金額を6100円※として算定します。 ※令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準の日額5700円が適用されます。
また、自賠責保険には支払限度額が定められており、傷害による損害では「被害者1名につき120万円まで」となっています。 休業損害のほかに、治療費や入通院慰謝料も含めて120万円までの上限額となるため、自賠責保険の上限額を超えた部分については加害者側の保険会社に請求していくことになります。
弁護士基準
1日あたりの基礎収入額×休業日数
弁護士基準による休業損害の計算方法は、自賠責基準とは異なり、上記の式を用いて計算します。 弁護士基準は、“被害者自身の収入”を考慮して1日あたりの金額(=基礎収入額)を算定します。そのため、弁護士基準には自賠責基準のように支払上限額はなく、被害者の職業・収入に応じて休業損害が計算されることになります。 また、弁護士基準は休業損害や慰謝料、逸失利益などの計算に用いる基準の中で最も高い基準となります。被害者が事故によって損失した損害額を請求するのに1番適した基準といえるため、弁護士基準で適切な休業損害を請求するためにも、弁護士へご相談されることをおすすめします。 なお、以下のページでは「休業損害に適用される基準」や「各基準の計算方法」など、さらに幅広く解説しております。ぜひご参考になさってください。
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休業損害以外の収入減少に対する補償|逸失利益
収入の減少に対する補償は休業損害のほかに、“逸失利益(後遺障害逸失利益)”があります。 逸失利益(いっしつりえき)とは、交通事故に遭わなければ将来得られたであろう利益のことをいい、後遺障害が残らなければ得られたであろう利益のことを「後遺障害逸失利益」といいます。 現実に生じた損害である休業損害に対して、逸失利益は将来に生じる損害を補償するものです。 公務員は給与体系がしっかりと確立されていることから、将来の給料が減額される可能性が低く、示談交渉で争いやすい傾向にあります。そのため、適切な休業損害や逸失利益を損害賠償請求するためには、弁護士へご相談されることをおすすめします。 公務員の逸失利益についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご参考になさってください。
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公務員の休業損害が認められた裁判例
交通事故による怪我のために病気休暇を取得した公務員に対して、休業損害が認められた裁判例を紹介します。
【横浜地方裁判所 平成23年1月18日判決】
信号機によって交通整理がなされていないY字路交差点で、優先道路に進入するために右折しようとした被告(自動車)が、優先道路を直進してきた原告(バイク)と衝突した事故で、原告は左足等を負傷し、後遺障害等級12級12号が認定された事案です。本件では、原告の損害額等が争点となりました。
《休業損害に係る裁判所の判断》
原告は、バスの整備点検を行う公務員であり、本件事故日の翌日から約3ヶ月間、病気休暇を取得していました。病気休暇の期間中は基本給分の支給がありましたが、裁判所は、①付加給(超過勤務手当・休日勤務手当)の減少分、②症状固定日までの、通院のための年次有給休暇取得分、③昇給・昇格の時期が延びたことによる損害分、④賞与(期末手当・勤勉手当)減額のための損害分について、休業損害(=59万6883円)を認めました。
公務員の適正な休業損害を獲得するためにも、弁護士にご相談ください
交通事故による怪我のために仕事を休むことで、年次有給休暇、賞与、昇給・昇格などに影響が生じるおそれがあるため、公務員の交通事故被害者の方は、職場の休暇・休職制度をしっかりと理解したうえで利用することが大切です。しかし、仕事を休むほどの怪我を負った状態で細かな制度内容とその影響を気にかけることは、非常に大きなストレスとなります。 交通事故事案に詳しい弁護士であれば、保険会社との示談交渉はもちろんのこと、公務員の休業損害について的確に主張できるノウハウがあります。おひとりで対応するよりも、保険会社に休業損害を認めてもらえ、適正な休業損害を獲得できる可能性を高めることができます。公務員の休業損害でお困りの方は、ぜひお気軽に弁護士へご相談ください。
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