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交通事故で外傷性くも膜下出血になってしまったら

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 谷川 聖治
監修 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates執行役員
監修 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates執行役員

「くも膜下出血」という傷病名を耳にすると、漠然とこわい、重症である、後遺症が残る、なかには死を連想される方もいらっしゃるのではないでしょうか。“脳”という生きるうえで重要な器官に関連する疾患であるため、発症されたご本人やご家族の方々に募る不安の大きさは、想像に難くありません。 くも膜下出血には、脳動脈瘤の破裂等による「器質性」と頭を強く打ちつけた場合に発症する「外傷性」があり、それぞれ治療方法が異なるという特徴があります。 ここでは、後者の交通事故による「外傷性くも膜下出血」に着目し、傷病の特徴や納得できる解決のためのポイント等を紹介していきます。

交通事故による外傷性くも膜下出血とは

脳は、生きていくうえでとても重要な中枢神経が集合している器官です。そのため、髪の毛や頭皮、頭蓋骨の他、外側から「硬膜」「くも膜」「軟膜」という3層の膜で守られています。くも膜下出血とは、くも膜の内側で出血が広がっている状態のことをいいます。 交通事故で頭を強く打ちつける等して発症したくも膜下出血は、「外傷性」であるため、頭部のどこかに傷や打撲痕があることが通常です。衝撃が強い場合、頭蓋骨骨折や脳挫傷、急性硬膜下血腫、びまん性軸索損傷等を併発するおそれがあります。また、受傷した部位・範囲・程度によって症状や治療方法が異なり、併発した傷病が重症である場合には、後遺症が残ってしまうこともあります。 いずれにしても重要なことは、交通事故に遭い頭を強く打った場合は、できるだけ早く病院に行って必要な検査を受診することです。受診先は、脳外科、脳神経外科、救急科で、「交通事故に遭い頭を打った」と訴えるようにしましょう。

くも膜下出血の検査と治療

くも膜下出血は、発症した原因が「外傷性」であるか「器質性」であるかによって、また、他の傷病の有無によって治療方法が異なります。そのため、まずは発症した原因を探るための検査を行います。 受傷直後は、主に頭部CT検査で、くも膜下出血の発症の有無や程度・併発している傷病の確認を行います。また、脳内MRI検査で、脳挫傷・脳動脈瘤・脳血管奇形の有無を確認したり、時間を置いて、造影剤を使用して脳動脈瘤の有無を確認したりします。 くも膜下出血が軽度で外傷性に起因している場合には、基本的に手術は行わず、自然治癒を目指します。症状に応じて、鎮痛薬や利尿薬、抗けいれん薬といった対症療法が行われることもあります。 これに対し、他の傷病を併発し、命の危険性があるような重症の場合には、手術が行われることがあります。程度によっては後遺症が残ることがあり、長期のリハビリを要するケースもあります。その場合には、リハビリ専門病院に転院することも多く、症状に応じて作業療法や心理療法、理学療法等が行われます。

外傷性くも膜下出血の症状

交通事故で頭を打ち、これまで感じたことのない「頭痛」「吐き気」「嘔吐」を経験した場合、外傷性くも膜下出血を発症している可能性があります。頭痛に関しては、痛さのあまり意識を失う方もいるため、特異なものであることがおわかりいただけると思います。また、脳挫傷を併発している場合は、痙攣や手足の麻痺、感覚障害、意識障害といった症状が現れることがあります。 いずれにしても事故で「頭を打った」場合は、症状の有無にかかわらず、すぐに病院に行くことを強くお勧めします。

外傷性くも膜下出血の後遺障害

外傷性くも膜下出血を発症した場合、様々な人間の機能を司っている脳を損傷しているおそれがあります。今日の医療業界に、一度損傷した脳を再生する技術は未だありません。そのため、脳の損傷により後遺症が残ってしまうことがあります。 代表的なものとしては、遷延性意識障害、高次脳機能障害、麻痺、視力障害、外傷性てんかんが挙げられます。それぞれの特徴と該当する後遺障害等級ごとの慰謝料の相場をみていきましょう。

遷延性意識障害

しばしば「植物状態」と称される後遺障害です。持続的な昏睡状態が続き、常時介護が必要となります。予後の自由を奪われてしまったご本人だけではなく、介護に従事しなければならない周りのご家族の負担も非常に大きいといえるでしょう。 以下の記事にてより詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。

交通事故による遷延性意識障害

請求できる慰謝料

等級 自賠責基準 弁護士基準
別表第1 1級 1600万円 2800万円

高次脳機能障害

高次脳機能とは人間の認知機能・知的機能のことで、脳が損傷したことにより意思疎通能力や社会行動能力等の低下・異常といった障害が残存してしまうことを、総じて高次脳機能障害といいます。高次脳機能障害は、しばしば「目にみえない障害」として、周囲の方々からの理解や症状の立証が難しい後遺症の一種といわれています。詳しくは以下の記事にて解説していますので、ぜひご参照ください。

高次脳機能障害について

請求できる慰謝料

等級 自賠責基準 弁護士基準
別表第2 1級 1100万円 2800万円
2級 958万円 2370万円
3級 829万円 1990万円
5級 599万円 1400万円
7級 409万円 1000万円
9級 245万円 690万円

麻痺

脳が損傷したことにより、四肢や顔面に麻痺が残ってしまうことがあります。脳損傷の部位や程度によって、発症する麻痺の範囲や程度が異なり、認定される後遺障害等級も変動します。詳しくは下記の記事にて解説していますので、ぜひご参照ください。

交通事故による麻痺

請求できる慰謝料

等級 自賠責基準 弁護士基準
別表第1 1級 1600万円 2800万円
2級 1163万円 2370万円
別表第2 3級 829万円 1990万円
5級 599万円 1400万円
7級 409万円 1000万円
9級 245万円 690万円
12級 93万円 290万円

視力障害

脳は、視力を司っている器官でもあります。脳の損傷部位が視力を司る部分(主に後頭部)だった場合、失明または視力低下の後遺症が残ることがあります。視力障害の程度によって、認定される後遺障害等級が変動します。

請求できる慰謝料

等級 自賠責基準 弁護士基準
別表第2 1級 1100万円 2800万円
2級 958万円 2370万円
3級 829万円 1990万円
4級 712万円 1670万円
5級 599万円 1400万円
6級 498万円 1180万円
7級 409万円 1000万円
8級 324万円 830万円
9級 245万円 690万円
10級 187万円 550万円
13級 57万円 180万円

外傷性てんかん

交通事故の衝撃で脳が損傷したことにより、意識消失やいわゆる痙攣、身体の強張りといった症状を発生することがあり、それらを総じて外傷性てんかんといいます。一度発症した外傷性てんかんは、完治に至るのが困難といわれており、後遺症が残る可能性が非常に高いです。 詳しくは以下の記事にて解説していますので、ぜひご参照ください。

交通事故によるてんかんと後遺障害

請求できる慰謝料

等級 自賠責基準 弁護士基準
5級 599万円 1400万円
7級 409万円 1000万円
9級 245万円 690万円
12級 93万円 290万円

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交通事故による外傷性くも膜下出血の慰謝料の計算例

ここで、例を用いて自賠責基準と弁護士基準で慰謝料を計算してみましょう。ぜひ、その算出結果にもご着目ください。条件は、以下のとおりです。 【入院期間6ヶ月(180日)、通院期間8ヶ月(240日)、実通院日数210日 、後遺障害等級5級2号(高次脳機能障害)】

自賠責基準

通院慰謝料 計算式は、「日額4200円×対象日数」です。対象日数は、「入院期間+通院期間」または「(入院期間+実通院日数)×2」のいずれか数字が小さいほうを採用します。そのため、例題の対象日数は、180日+240日=420日<(180日+210日)×2=780日なので、前者を採用します。

4200円×420日=176万4000円>120万円

※自賠責基準の特徴として、「傷害による損害」に対する賠償額は120万円までという上限が設けられていることが挙げられます。そのため、今回は限度額の120万円にしています。

◆後遺障害慰謝料 599万円
◆慰謝料計 120万円+599万円=719万円

弁護士基準の計算例

弁護士基準は、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称:赤い本)を参照します。

◆入通院慰謝料 290万円(※入通院慰謝料別表Ⅰより)
◆後遺障害慰謝料 1400万円
◆慰謝料計 290万円+1400万円=1690万円

外傷性くも膜下出血と診断されたらご相談ください

外傷性くも膜下出血は、受傷した部位・範囲・程度や、併発した傷病によっては、重い後遺症を抱えるおそれのある疾患です。後遺症が残った場合、被害者ご本人だけではなく、周りのご家族のご負担も大きいことが懸念されます。交通事故により奪われてしまった予後の自由や、周りのご家族が抱えていくご負担は、適正に賠償を受けるべきではないでしょうか。 とはいっても、相手方が提示する賠償額が妥当であるのか、認定された後遺障害等級は適正なものであるのか等、様々な疑問や不安が募ることでしょう。そこで、交通事故と医療の両分野に精通した弁護士に依頼されることをお勧めします。脳に関する疾患は、示談交渉において賠償額を巡り高度な医学論争に発展することも多く、医学的知見が非常に重要となるからです。 外傷性くも膜下出血は、軽度なものもあれば後遺症を抱えるおそれもある疾患です。安心して納得のいく解決を目指すためにも、ぜひ弁護士へ相談・依頼されることをご検討ください。

外傷性くも膜下出血が交通事故との因果関係を認められた裁判例

ここで、外傷性くも膜下出血が交通事故との因果関係を認められた裁判例を紹介します。

【大阪地方裁判所 平成29年2月8日判決】

<事案の概要>

事故の態様は、交通量の多い片側2車線の道路で、被告車(普通乗用自動車)が原告車(原動機付自転車)の右ハンドルに接触させ、原告車を転倒させたものです。原告は、右硬膜外血腫、左硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、右鎖骨骨折、骨盤骨折等を受傷し、後遺症が残存したとして、被告に対し損害賠償を請求しました。 事故直後は重篤な意識障害があり、症状固定時には日常生活において見守りを要する状態であったことから、将来介護費の日額や近親者固有の慰謝料、その他事故態様を巡り、過失割合等が主な争点となりました。

<裁判所の判断>

裁判所は、本件事故による右硬膜外血腫、左硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血に起因した左側頭葉や前頭葉に脳挫傷等の所見を認め、残存する高次脳機能障害及び身体性機能障害に対し、後遺障害等級3級3号が相当であると判断しました。右顔面神経麻痺については後遺障害等級12級14号、右難聴の症状については後遺障害等級14級3号に相当するとし、総じて併合2級に該当すると判断を下しました。加えて、将来介護費は日額6500円、原告の夫や子供2人に対しそれぞれ近親者固有の慰謝料を認めました。 また、目撃者の証言や当該車両の損傷具合から、原告の過失割合は50%が相当であるとし、その結果、被告に対し原告の損害として5468万145円、夫の損害として110万円、子供2人の損害としてそれぞれ27万円の賠償を命じました。

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