脊髄損傷の後遺障害 | 認定に必要な検査

監修弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates 執行役員
交通事故に遭い脊髄損傷を受傷された方、またご家族の方々は、現実を受け入れることや今後の生活に対する不安等、様々な思いを抱かれていらっしゃることでしょう。ある日突然「当たり前の生活」が奪われてしまった苦痛は、被害に遭ったご本人やご家族にとって計り知れません。 ここでは、交通事故による「脊髄損傷」に着目し、被害者の方々の視点に立って、症状や懸念される後遺障害、加害者側に請求できる慰謝料等を解説していきます。
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目次
脊髄損傷とは?
脊髄損傷とは、文字どおり脊髄を損傷することです。脊髄は、脊椎(背骨)の中にある中枢神経で、脳から送られる信号を手足等の末梢神経に伝達し、また、末梢神経からの信号を脳に伝達する重要な神経です。 脊髄は脊椎に守られていますが、交通事故等で外部から脊椎に強い力が加わり骨折や脱臼することで、脊髄の圧迫・断裂等といった損傷を受けます。 脊髄という重要な神経を損傷することにより、脳と手足等の末梢神経間の情報の伝達に障害が生じ、手足等の運動や知覚に影響が出ます。
脊髄損傷で起こる症状
脊髄は、脳と手足等の器官との間で情報を伝達する神経であるため、損傷すると、情報の伝達がうまくいかなくなります。具体的に、次のような様々な症状が起こります。
- 運動麻痺…自分の意思で手足等を動かすことが困難になる
- 感覚障害…触覚・熱感覚・痛覚といった知覚に異常が生じる
- 反射の障害…刺激によって自動的に引き起こされる筋収縮が起こらなくなる
- 循環器障害…脈拍の異常、血圧の低下、循環血液量の減少、全身浮腫、肺水腫等
- 呼吸障害…呼吸機能の喪失(頚髄の損傷により生じる)
- 排尿障害…頻尿・排尿困難等
- 消化器障害…腸閉塞・宿便等
- 褥瘡(じょくそう)(床ずれ)…血流の障害による皮膚の壊死
- その他…体温調節の異常、拘縮、痙縮等
特に、麻痺が生じることが多いです。麻痺の範囲により、四肢麻痺、対麻痺、片麻痺、単麻痺に分類できます。
脊髄損傷の種類
脊髄の損傷には、完全損傷と不完全損傷の2パターンが存在し、現れている症状の程度によって分類されます。脊髄損傷をしてしまうと、脳から伝わってくる情報が、損傷箇所以下の部位にうまく伝達できなくなります。
結果、損傷部分以下における運動、感覚の知覚ができなくなってしまうのです。伝達能力への影響や症状による程度の分類については、以下をご覧ください。
完全損傷
脊髄が断裂し、末梢神経への情報の伝達が完全にできなくなってしまう状態 脊髄が断裂することにより、情報の伝達が完全に不可能になり、損傷部位より下の部分を動かしたり、触覚や痛覚といった感覚を知覚したりすることができなくなります。 脊髄が完全に切れてしまっているため、治療によっても完治は困難です。
不完全損傷
脊髄が断裂するまではいかず、一部の伝達機能は残存している状態 脊髄の損傷はしたものの断裂はしていないため、損傷部位より下の部分を動かしたり、触覚や痛覚といった感覚を知覚したりすることが多少できます。損傷部位以下を自分の意思で動かすことはできなくても、触覚や痛覚等は知覚できるような場合もあります。 伝達機能の一部は残っているので、リハビリ次第で、筋肉をある程度自分の意思で動かせるようになる可能性があるとされます。 不完全損傷の中でも「中心性脊髄損傷」は、他覚的所見が確認しにくく、脊髄損傷の有無が問題になりやすい傾向にあります。
交通事故で脊髄損傷を負った方やその家族がすべきこと
脳と同じ中枢神経である脊髄は、末梢神経と異なり、損傷の修復や再生はできません。そのため、脊髄損傷によって生じた症状は、完治することはありません。 このように、脊髄は非常に重要な神経であるため、脊髄損傷は生活に多大な影響をもたらします。脊髄損傷が疑われる場合には、必ず病院に行って必要な検査を受けましょう。そして、脊髄損傷と診断されたときには、病院で適切な治療を受けることが大切です。 病院での適切な治療は、後々の損害賠償請求においても非常に重要です。ご本人はもちろん、ご家族の方々もその点を意識しながら、治療に取り組みましょう。
脊髄損傷の診断を受ける
まず、脊椎における脱臼や骨への大きな影響の有無に加え、脊髄にかかる負荷及び断裂がみられるかどうかといった点を、画像検査等の検査をもとに判断していきます。受傷内容の特定や程度を把握するためにも、正確な診断が要され、異常があれば迅速な治療が必要となります。
病院で治療を受ける
脊髄損傷は完治することは難しいですが、治療やリハビリによって、症状が改善する可能性はあります。重要なのは、「できるだけ早い段階で治療を開始すること」です。 治療により状態が落ち着いたら、社会復帰に向けたリハビリを本格化します。
後遺障害等級認定を獲得する
交通事故による脊髄損傷から派生した症状が治りきらずに後遺症として残ってしまった場合、「後遺障害分の損賠賠償」も適正に受けたいところです。そのためにも、後遺障害等級認定の申請手続を行いましょう。
脊髄損傷で受けられる賠償を知っておく
交通事故に遭われただけでなく、脊髄損傷によって介護が必要な重篤な後遺症が残ってしまう方もいらっしゃいます。すると、ご本人は治療やリハビリ等、ご家族もそのサポートや介護等に強いられるような生活スタイルとなるでしょう。 想像を絶する負担や苦痛が伴う中、加害者側に対して損害賠償請求を行うことは、さらなる身体的・精神的苦痛が伴います。加えて手続の煩雑さから、賠償を受けられる項目を見逃してしまうおそれもあります。 一般的に、交通事故による脊髄損傷に起因した後遺障害が認められた場合、加害者側から受けられる可能性のある損害賠償項目を列挙しましたので、ぜひ参考になさってください。
<傷害分>
・治療費
・通院交通費
・入院雑費(実費または日額1500円程度)
・入通院慰謝料
・休業損害
・入通院付添費(入院:日額6500円程度、通院:日額3300円程度)
<後遺障害分>
・後遺障害慰謝料
・後遺障害逸失利益
・将来介護費(実費または日額8000円程度)
・介護雑費(日額1000円程度)
・介護器具代(車いす、杖等)
・改装費用(自宅リフォーム、車改装等)
各所への対応
警察とのやりとり 交通事故直後は、事故が発生したことを報告するため、警察と連絡を取る必要があります。人身事故の場合、警察が調査をして「実況見分調書」という事故状況を詳細に記載した資料を作ります。 示談交渉や裁判のときに、過失割合が争いになった場合、この実況見分調書が有力な証拠資料となりますので、警察とのやりとりは非常に重要となります。 加害者とのやりとり 加害者が任意保険に加入していない場合、基本的に加害者本人と直接連絡を取る必要があります。しかし、任意保険に加入しない理由は経済的なものが主であることも多いため、十分な額の損害賠償金を受け取れないおそれがあります。また、治療費等を自己負担しなければならない懸念もあるため、できるだけ早い段階で協議する必要があります。 保険会社とのやりとり 相手方保険会社との示談交渉では、治療費、慰謝料、休業損害等、様々な点を協議していく必要があります。 ただし、相手方保険会社はあくまでも加害者側の示談代行をしているので、被害者に対し適切な助言をする義務はありません。そのため、相手方保険会社の主張を鵜呑みにしてしまって後悔しないように、慎重に対応する必要があります。 勤め先への連絡 交通事故で会社を休むようであれば、各種手続に会社の協力が必要になるので、「交通事故による怪我のために休む」ということをしっかりと伝えましょう。 業務中や通勤中の事故の場合は、会社を通して労災保険給付請求の申請を行います。 また、プライベートでの事故の場合でも、休業損害を速やかに請求し、生活の基盤を整えるためには、会社に休業損害証明書の作成や源泉徴収票の発行等を依頼する必要があります。
脊髄損傷を負ったご本人やご家族のためにも、弁護士へご相談ください
基本的に脊髄損傷は治ることはありませんし、症状が重篤なために介護を必要とするケースが多いです。生活への影響も大きく、介護費用や治療費といった金銭的な負担も大きいでしょう。そのため、適正な賠償を受けることが重要になります。 保険会社との示談交渉を、脊髄損傷を受傷したご本人やご家族が行う場合には、ご自身で適正な慰謝料額を算定し、ご自身の主張を裏付ける資料等の証拠を集める必要があります。しかし、その主張が受け入れられることは極めて稀です。 ご自身の負担を減らし、適正な賠償を受けるためにも、弁護士に依頼しましょう。
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脊髄損傷による後遺障害と慰謝料
脊髄の損傷を負えば、その後の生活が一気に変わってしまうリスクもあります。多大な負担と苦痛を被る怪我の一種といえるでしょう。
損傷を負ったとしたら、しっかりと賠償を受けることができるのでしょうか。
神経症状
脊髄損傷を受けるほどの交通事故に遭った場合、脊髄損傷の程度が重くなくても、痛みや痺れ等の「神経症状」が残存することがあります。「神経症状」とは、神経の圧迫により生じる痛みや痺れ、麻痺等の症状です。他覚所見が乏しいため、診断が難しいといわれています。 神経症状の主な原因としては、むちうち、骨折、靭帯損傷等があります。また、頚椎の骨折・脱臼により、脊髄(中枢神経)が圧迫されることによっても、痛みや痺れ、麻痺といった神経症状が生じる場合があります。
脊髄損傷で後遺障害等級認定されるには
神経症状に関連する後遺障害等級の認定を受けるためには、事故に遭った直後に、状態の詳細確認が可能な、CTやMRIの画像診断を受けておくことが重要です。
さらに、血液検査や神経学的検査等の客観的検査をしてもらい、他覚的にみて神経症状が出ていると診断されることも大切です。
もしも他覚所見がなかったとしても、事故の当初から、痛みや痺れといった症状が一貫して発生していれば、後遺障害等級が認定される可能性はあります。
まずは、適切な検査をしっかりと受けるという行動を心掛けましょう。
脊髄損傷で認定される可能性のある後遺障害等級と慰謝料
一般的に、とても重篤な症状をもたらす脊髄損傷ですが、金銭面ではどれほどの補償を受けることができるでしょうか。
以下では、該当する可能性のある後遺障害等級及び、付随する慰謝料金額を記載しています。
後遺障害等級 | 自賠責基準※1 | 弁護士基準 |
---|---|---|
別表第1 1級1号 | 1650万円 | 2800万円 |
別表第1 2級1号 | 1203万円 | 2370万円 |
3級3号 | 861万円 | 1990万円 |
5級2号 | 618万円 | 1400万円 |
7級4号 | 419万円 | 1000万円 |
9級10号 | 249万円 | 690万円 |
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
※1:自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。
脊髄損傷で後遺障害等級認定を受けるための検査
後遺障害等級認定にあたっては、他覚的所見の有無が重要です。
他覚的所見があれば、症状が客観的に証明されることになるため、後遺障害として判断されやすくなり獲得できる等級も上がります。所見がなくとも後遺障害等級14級9号であれば認定される可能性もありますが、より客観的な裏付けを伴った方が、認定の確率も上がります。
受けるべき検査としては、以下をご参考にしてください。
単純X線
一般的なレントゲン撮影です。脊髄の骨折や脱臼が疑われる場合には、迅速に結果の出るX線撮影が行われることが多いです。 しかし、後述のMRIやCTに比べて、細かい部分を確認することはできません。そのため、脊髄損傷ではMRIやCTが用いられることが多いです。
MRI
脊髄自体が抱える障害を確認するために、非常に重要な検査です。磁力を用いて体内の組織をみていきますが、神経や血管が構成する軟部組織と呼ばれる部位における詳細な記録まで可能です。
非常に高性能な検査のひとつといえるでしょう。
CT
コンピューター断層撮影機能を備える特殊機器によって、体内を映し出します。
なお撮影にあたっては、X線が用いられます。損傷が起こっている位置の特定や早期に症状の重さを調べられるため、広く医療現場に普及しています。
SEP(体性感覚誘発電位)
脊髄・大脳皮質までの、感覚神経の伝導路の働きを調べる検査です。末梢神経を刺激することにより誘発される反応を、頭皮上等から記録を取ることで調べることができます。手足の麻痺が疑われる場合に行われることがあります。
徒手筋力テスト(MMT)
それぞれの筋肉の筋力が低下しているかどうかを、素手で評価する検査方法です。 筋力の低下について評価するとともに、日常生活の動作を介助なしに行うことができるか、神経障害の部位はどこなのかを調べるために行われます。また、治療やリハビリの効果等を判定することを目的に行われる場合もあります。
腱反射テスト
上腕二頭筋の付近やアキレス腱を検査器具で叩き、反応の強弱を確認します。脊髄や大脳に障害がある場合は強い反応が、神経根の異常等、末梢神経に異常がある場合には弱い反応がみられるか、反応がないといった結果が得られます。 脊髄または末梢神経の障害が疑われる場合に行われることがあります。
バビンスキー徴候反射テスト
針のようなもので、足の裏をかかとからつま先に向かってゆっくりこすり上げたときに、足の親指が足の甲の方にゆっくり曲がる(拇指現象)場合、中枢神経の伝導路のひとつである錐体路障害の疑いがあります。 また、拇指現象と同時に、親指以外の四本の指が扇状に開くこともあります(開扇現象)。
ホフマン徴候反射テスト
人差し指と中指で軽く挟んだ、患者の中指の指先を弾き、反応を確認するテストです。これにより親指が曲がる場合には、脊髄や錐体路等、中枢神経の障害の疑いがあります。 ただし、健常者でも起こる可能性がある反射のため、補助的な検査手法に留まります。
トレムナー反射テスト
先述のホフマン徴候反射テストと同様に、指の反射反応をみて障害の有無を判断するものですが、本テストでは患者の中指を利用します。流れとしては、まず、中指を手の甲に向け反らします。中指の指先を弾いた結果の親指の動きとして、曲がった方向が内側であれば、錐体路といった中枢神経への障害が発生しているとみられるものです。
なおホフマン徴候反射テストと同様に、反応は健常者にも起こり得ます。したがって、補助的に実施する手段にすぎない点に注意しましょう。
弁護士ができること
高度な医学論争に対応 重い後遺症が残った場合、交通事故と後遺症との因果関係や、傷害内容と後遺症との因果関係等が問題になることが多く、医学的知識がなければ対応が困難です。保険会社はいつでも協力してもらえる医師(顧問医)がいるため、医学的知識で劣ってしまうと適切な対応ができません。 脳や神経等が問題となる重い後遺症が残った場合には、交通事故だけではなく医療問題にも精通している弁護士に相談すべきです。 治療や検査のアドバイス 治療方針の決定は主治医に委ねられますが、医師は治療をするのが専門であり、後遺症が残り回復が見込めない状況での後遺障害等級認定や手続のことまでは不慣れなことも多いです。 そのため、後遺症が残ってしまい、後遺障害等級認定の申請をするときになって、必要な検査結果がないことが判明し、資料が足りず、適切な後遺障害等級に認定されないということも残念ながら起こり得ます。この点、交通事故案件を多数取り扱う弁護士は、その豊富な経験から、後遺障害等級認定を見据えたアドバイスをすることが可能です。 後遺障害等級認定の申請・異議申立て 後遺障害等級認定の申請をするうえで、保険会社や医師に任せきりでは適切な後遺障害等級認定が受けられない場合があります。 実際に、弁護士がレントゲン・CT・MRI等の画像を見て主治医と協議する際、主治医が気にしていなかった点を指摘できることもあります。 後遺障害等級認定の申請や異議申立てを適切にする場合は、主治医と協議し、より良い診断書を書いてもらうことが重要です。そのためには、医療問題に強い弁護士に依頼するのが良いでしょう。 示談交渉 重い後遺症が残った場合には裁判になる可能性が高いため、保険会社との示談交渉の際に、裁判への移行も辞さない構えを見せる必要があります。 裁判では医学論争になることもあるため、医療問題に精通していない弁護士では、示談交渉の場で「裁判をしましょう」と迫力のある主張をすることは困難です。 したがって、示談交渉においても後遺障害等級認定の申請や異議申立てをする場合と同様に、医療問題に強い弁護士に依頼すべきです。
脊髄損傷を負い、適切な後遺障害等級認定を受けるなら弁護士へ
脊髄損傷で後遺障害慰謝料を確実に受け取るためには、後遺障害等級認定を受ける必要があります。等級ごとの慰謝料を比較してもおわかりいただけるように、症状の程度によって認められる等級が異なるうえ、相当する後遺障害慰謝料の金額にもひらきがあります。重要なのは、症状に見合った適切な後遺障害等級の認定をしてもらい、適正な賠償を受けることです。 その点、特に医療分野に強い弁護士に相談すれば、適切な後遺障害等級認定ためのアドバイスを受けられます。心強い味方を得るためにも、ぜひ弁護士にご依頼ください。
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脊髄損傷における治療の必要性
脊髄損傷による症状が完治しない場合でも、リハビリなどにより少しでも症状を緩和させられる可能性があります。
しかし、交通事故による外傷性脊髄損傷の場合は、症状の状況は日々刻々と変化していくなどの理由もあり、医師と連携したうえでのふさわしい治療に専念することが重要です。
本項目では、適切とされる治療の方法や流れについて、解説をいたします。
急性期
急性期とは、脊髄を損傷した直後から状態が安定するまでの期間(3~4週間)をいいます。急性期においては、全身管理、薬物療法、手術、合併症予防を目的とした治療がなされます。
・全身管理
外傷性脊髄損傷では、受傷直後からどんどん状態が悪化していくので、急性期ではとにかく全身を管理することで状態を安定させ、損傷を最小限に抑えるよう努めます。具体的には、薬や手術で脊髄の圧迫を緩和する治療を行います。そして、なるべく早い段階でリハビリを開始できるようにします。
・薬物療法
脊髄損傷後に進行する壊死等を防ぐために、受傷直後にステロイド剤を大量投与することがあります。しかし、合併症のリスクや実効性への疑問から、これについては是非をめぐる議論が続いています。
また、ステロイド剤の投与とは別に、筋委縮を緩和するため、筋弛緩剤の投与を行うこともあります。
・手術
脊髄損傷の手術療法の一つとして脊椎を固定するための脊椎固定術が挙げられます。
これは、脊椎に加えられた負荷を軽減・除去し、最終的に脊柱上部を支える力を正常な状態に安定させることを目指します。
・合併症予防
脊髄の損傷では、その他病気の併発もリスクとして考慮すべきです。
そのため、褥瘡(じょくそう)、関節拘縮、尿路や呼吸器への感染症等に対し、徹底した備えを行います。
慢性期
慢性期とは、病状は比較的安定しているものの、治癒が困難な状態が続く期間をいいます。慢性期においては、遅発性脊柱変形や遅発性脊髄障害の治療、合併症等への措置、社会復帰に向けてのリハビリが主な目的となります。
・遅発性脊柱変形・遅発性脊髄障害の治療
治療の継続中には、遅発性脊柱変形という傷病の発生や、遅発性脊髄障害が招く麻痺症状の進行が引き起こされるおそれもあります。
手術を行うことで、発症のリスクを低減できる可能性があるといわれています。
・合併症への措置
急性期と同様に、併発するおそれのある病気に対しては、日頃の治療の中で徹底した対策をしていくことが不可欠です。
異所性骨化、痙縮、尿路への感染リスクのある病気等といった、合併症への措置を行います。
・リハビリ
社会に復帰することを見据えた訓練です。
日常生活の中で要する、立つ、座る等の姿勢をとることや、自力での移動、階段の上り下りなどといった動きの回復を目指します。
脊髄損傷の慰謝料の計算例
重い病気を負ってしまうと、きちんとした補償は行われるのか、不安に思われる方もいらっしゃることでしょう。
そこで、脊髄損傷を負い、さらに後遺障害が残ってしまったと仮定し、具体的な慰謝料額を算出してみます。
基本的に、後遺障害が残った場合は、通院及び入院の苦痛を補償するための「入通院慰謝料」に加え、後遺障害を負ってしまった苦痛への補償としての「後遺障害慰謝料」の2種類が支払われます。各慰謝料金額を足した合計額が、最終的にもらえる慰謝料の総額となります。
例として、1年間入院し2年間の通院期間を経た後、3級3号(四肢麻痺)の後遺障害等級の認定を受けたという事案で慰謝料の金額を計算してみます。
自賠責基準の計算例
入通院慰謝料は、「入通院治療に要した総期間の日数」と「入通院を行った実際の日数×2」の数字を比較し、少ない方に4300円という規定の日額※2をかけて算出します。
例に基づくと、総期間の日数が実際の治療日数の2倍の数値より小さいことがわかるため、「4300円の日額×1080日という総期間=464万4000円」という結果になります。
しかし、ここでご注意ください。自賠責基準での補償にあたっては、治療費、入通院慰謝料、さらには休業損害等を合わせ、120万円までしか支払われないというきまりがあります。したがって、本ケース含め、原則の方法に基づき算出した入通院慰謝料がいくら多額であっても、支払われる最大額は120万円に留まるのです。
また、本ケースにおける後遺障害慰謝料額は861万円ですので、最終的には、981万円を慰謝料総額として得られるということになります。
※2:令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準の日額4200円が適用されます。
※3:新基準で算出しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。
弁護士基準の計算例
弁護士基準を用いて入通院慰謝料を求める場合は、専用の算定表に基づいて計算を行います。
算定表自体は、いわゆる赤い本と呼ばれる「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」内に掲載されています。算定表は2種類存在し、身体の状態により使い分けがなされますが、四肢麻痺のような他覚所見を伴い重篤と判断される後遺障害に関しては、別表Ⅰを採用します。
別表Ⅰに基づくと、入通院慰謝料は373万円となります。加えて、後遺障害慰謝料は1990万円となっていますので、最終的には、2つの金額を合計した2363万円が、慰謝料総額の相場となります。
脊髄損傷の後遺障害が認められた裁判例
では、交通事故による脊髄損傷という怪我が後遺障害として実際に認定されたケースでは、裁判所の判断はどのようなものだったのでしょうか。
本項目では、被害者が脊髄損傷を負った交通事故での裁判例を取り上げています。以下の解説をご覧ください。
大阪地方裁判所 平成7年3月2日判決
<事案の概要>
被告の運転する普通乗用自動車が、交差点を右折しようとした際、交差点を直進してきた原告の運転する自転車と衝突し、原告を路上に転倒させました。これにより損害を被ったとして、原告が被告に対して損害賠償を請求した事案です。 本件事故により、原告は脊髄損傷の傷害を負い、結果として後遺障害等級1級8号相当の両下肢麻痺等の後遺障害が残ったと主張したところ、被告が、両下肢麻痺等の症状は原告の体質等に起因するものと主張し、事故との相当因果関係を否定したため、争いになりました。
<裁判所の判断>
裁判所は、
- 1 事故直後、原告の訴えた症状が、脊髄損傷の初期症状と類似性があること
- 2 本件事故を機に自力歩行が相当に困難な状態になったこと
- 3 ほぼ一貫した胸髄11髄節以下の知覚障害が存在し、胸髄内の異常を示すMRI検査結果(胸椎10-11椎体レベルの胸髄内に異常)とも符合すること
- 4 3の検査結果は、外傷による胸髄損傷の可能性を窺わせる他覚的所見であること
- 5 原告の症状には脊髄ショック等脊髄損傷の典型的な徴候が明確には認められないものの、脊髄損傷の部位・程度によって、徴候の有無や程度には相当広範囲な差異があり、画像診断でとらえられない脊髄損傷も存在すること
これらの事情を考慮し、本件事故による外力が原告の脊髄(胸髄10-11椎体レベルの胸髄内)に損傷等を与え、両下肢麻痺の一因となったとして、本件事故と後遺障害との因果関係を認めました。 そして、後遺障害の内容・程度としては、症状固定時においては下肢関節の自動運動がまったくできないが、それ以前に自動運動や屈曲が可能な時期があったことや垂れ足検査では異常が見られなかったという結果を考慮し、両下肢の筋力自体は徒手筋力テストで2ないし3のレベルで、両下肢に軽度の筋委縮が認められる程度の、自力歩行が困難な後遺障害等級5級2号の不全麻痺に該当すると認めるのが相当であるとしました。 こうした結果を踏まえ、原告に生じた損害額は5635万7082円であるとし、過失相殺として2割、身体的素因や心因的要因が後遺障害の残存に与えた影響を考慮して4割減額し、被告に対し、2350万3953円の損害賠償命令を出しました。
脊髄損傷による後遺障害が残りお困りなら、すぐに弁護士へご相談ください
交通事故で脊髄損傷を受傷すると、介護を要するような重篤な後遺障害を抱えることも多いです。「昨日まで当たり前にできていたことができない」「家族とのこれからの楽しみが奪われてしまった」等、被害に遭われたご本人や支えるご家族の、身体的・精神的苦痛や金銭的負担は、計り知れません。
治療やリハビリ、そのサポートや介護をする中で、加害者側との示談交渉を行うことは、体力的にも精神衛生上も好ましくありません。
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弊所は、交通事故事案や医療過誤事件それぞれを専門に取り扱う事業部を有しており、専門性の高い対応をご期待いただけます。
ご自身で抱え込まずに、ぜひ不安な心境をお聴かせください。
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本人原則負担なし※保険会社の条件によっては
本人負担が生じることがあります。
弁護士報酬:成功報酬制
※死亡・後遺障害等級認定済みまたは認定が見込まれる場合
※事案によっては対応できないこともあります。
※弁護士費用特約を利用する場合、別途の料金体系となります。