高次脳機能障害で後遺障害7級認定の4つのポイントと慰謝料

交通事故で頭部に外傷を負うと、高次脳機能障害を発症することがあります。高次脳機能障害とは、「新しいことを覚えられない」「同時に複数の作業ができない」「怒りっぽくなる」といった精神の障害で、その症状は多岐にわたりとても複雑です。 交通事故による怪我で後遺症が残った場合、後遺障害等級認定の申請をして後遺障害に認定されれば、症状の程度に応じた等級が与えられます。 高次脳機能障害が後遺障害と認められれば、自賠法施行令の別表第1の1級・2級、別表第2の3級・5級・7級・9級のうちのどれかに認定されます。また、高次脳機能障害としては認められなくとも、何らかの神経症状があれば、別表第2の12級・14級に認定される可能性があります。 このページでは、後遺障害等級第 7級の高次脳機能障害がどのように認定されるのか、またどのような症状なのかについて解説します。
目次
高次脳機能障害が後遺障害等級第 7級に認定される基準
自賠法施行令において、後遺障害等級第 7級に相当する高次脳機能障害と認められる基準は、以下のとおりです。 「7級4号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」 しかし、この表現では漠然としていて、他の等級との違いがわかりづらいかと思います。 高次脳機能障害は、専門家であっても症状の程度による等級の線引きが難しい障害です。そこで、自賠責保険の後遺障害等級認定の審査を行う損害保険料率算出機構では、高次脳機能障害を的確に認定するために、「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会」を設置しています。 当該委員会では、後遺障害等級7級4号の補足的な考え方として「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」と例示しており参考になります。 また、労災保険における高次脳機能障害の後遺障害等級認定では、①意思疎通能力、②問題解決能力、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力の4つの能力をA~Fの6段階で評価します。 高次脳機能障害の後遺障害等級第7級は、
- (ア) 4つの能力のうち、Dが1つ以上(1つ以上の能力の半分程度が失われているもの)
- (イ) 4つの能力のうち、Cが2つ以上(2つ以上の能力の相当程度が失われているもの)
であれば、認められるものとされています。
後遺障害等級が第 7級になる高次脳機能障害の具体例
【神戸地方裁判所 平成28年6月30日判決 】
原告は交通事故で受傷し、脳器質性精神障害、高次脳機能障害、びまん性軸索損傷、脳挫傷と診断されました。頭部画像上、左前頭葉・側頭葉の脳挫傷痕や同部の脳萎縮の進行が確認でき、下記の症状が認められることより、自賠責保険の後遺障害等級認定手続において、後遺障害等級7級4号の高次脳機能障害に該当するとされました。
- 易怒性、易刺激性、易疲労感、集中力低下、注意散漫、食思不振、仕事の能力低下、食事摂取量の低下、対人関係がうまく保てない等の自覚症状がある。
- 知能検査において、言語性IQ72、動作性IQ72、全検査IQ70とされた。
- 易怒的、易刺激的であり、対人関係が円滑に保てないうえ、集中維持困難が強く、一つのものごとをやりとげるのが困難である。
- 暗記力が悪くなり理解力も低下し、単純、簡単な会話でないと返事をかなり待ってあげないといけない。
- ふらつきがあり、仕事中も転倒しやすいので、注意が必要である。
- 自宅から勤務先まで電車で通勤しているが、電車の駅のホームから転落したこともあるので、家族等が付き添っている。
- 日常生活においても、食事中にコップや茶碗を落とす、脱いだ服や使った物が片付けられず、どこに置いたか覚えていない等の症状がある。
- 軽作業は可能であるが、もの忘れをするので仕事の始めに多くの指示を受けることができず、頻繁な指示を受けて初めて仕事ができている。
裁判所も上記の事実を認定し、「原告が従事できる労務は相当制限されているというべき」と評価し、原告の高次脳機能障害は後遺障害等級7級4号に該当するとしています。
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後遺障害等級第 7級が認定される4つのポイント
高次脳機能障害が後遺障害として認定されるには、以下のようなポイントがあります。
- ① 初診時の診断書に頭部外傷の記載がある
交通事故によって頭部に外傷を負ったという事実が必要です。 - ② 高次脳機能障害特有の症状がある
事故前には存在しなかった「認知障害」「行動障害」「人格変化」といった症状が現れます。 - ③ カルテに意識障害についての記載がある
意識障害の有無・程度・持続時間が重要になります。意識障害が重度で持続が長いほど、高次脳機能障害が生じる可能性は高くなります。 - ④ 画像所見がある
CTやMRI等の画像検査によって、脳に損傷がある、もしくはあったことを証明します。
実際の審査では、これらを踏まえたうえで、医師による所見の他、家族や介護者等より得られる被害者の日常生活の情報から症状の程度が判断され、後遺障害等級7級4号の基準に相当するとみなされれば、その等級が認定されます。
高次脳機能障害で後遺障害等級第 7級になった場合の慰謝料
交通事故による怪我の後遺症で後遺障害等級が認定されると、後遺障害慰謝料を請求することができます。後遺障害慰謝料は、等級ごとにその金額が決められています。さらに、同じ等級でも、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準のうちのどれを適用するかによって金額は変わってきます。 高次脳機能障害で後遺障害等級第7 級と認定された場合、それぞれの基準における後遺障害慰謝料の金額は以下のとおりになります。なお、任意保険基準については統一基準がないので、例としてあいおいニッセイ同和損害保険株式会社の人身傷害保険特約の約款(平成30年1月現在)を参考にしています。
自賠責基準 | 419万円※ |
---|---|
任意保険基準 | 500万円 |
弁護士基準 | 1000万円 |
3つの基準における後遺障害慰謝料を比べると、弁護士基準を適用したものが圧倒的に高額になっていることがわかります。
※自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。詳しくは、こちらをご覧ください。
自賠責保険の支払基準が変わりました高次脳機能障害で後遺障害等級第 7級が認められた裁判例
ここで、高次脳機能障害で後遺障害等級第7 級と認定された裁判例をご紹介します。
【金沢地方裁判所 平成29年9月26日判決 】
原告(男性)は、大型バイクに乗っていたところ、被告が運転する普通貨物自動車と衝突し、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、びまん性軸索損傷、頚椎骨折、胸椎破裂骨折、左鎖骨骨折等の傷害を負いました。原告は、救急搬送時には重度の意識障害があったものの、治療やリハビリによって奇跡的に回復しました。残った症状について後遺障害等級認定の申請をしたところ、損害保険料率算出機構より以下の①~④のとおりに判断され、併合第6級と認定されました。
- ① 複視 ⇒10級2号
- ② 脳挫傷による高次脳機能障害 ⇒7級4号
- ③ 頚 椎骨折・胸椎骨折による脊柱の変形 ⇒それぞれ11級7号に該当し、併合第 10級
- ④ 左鎖骨骨折等による左鎖骨の変形 ⇒12級5号
これに対し被告は、①③④については争わないが、②高次脳機能障害については7級4号ではなく、第 12級に留まる程度であると主張しました。 原告は、本件事故以前から飲食店を経営し、メニューの考案、食材の仕入れ・仕込み、調理、接客、後片付け等を行っており、原告の妻に手伝ってもらう他、アルバイトも雇っていました。 しかし、事故後に営業を再開したところ、原告は事故前に比べて包丁さばきが稚拙となり、細かい作業ができなくなった他、予約を受けたことを忘れる、レシピを忘れるといったことがあり、作業の段取りを考えることができず、妻が教える必要がある場面もみられました。また、調理の補助や接客、後片付け等については、妻やアルバイトが担当するようになりました。 日常生活においても、疲れやすく、すぐ居眠りをする、毎日の活動意欲がほとんどない、ふさぎこむ、気分が落ち込むといった様子がみられるようになりました。 以上より、裁判所は、原告の高次脳機能障害の程度について、後遺障害等級7級4号に相当するものと判断しました。よって、原告の後遺障害の程度は、争いのない上記①③④の後遺障害と併合して、後遺障害等級第 6級に相当すると認められています。
【東京地方裁判所 平成29年11月28日判決 】
原告(男性)は、被告が運転する普通乗用自動車に同乗していた際に自損事故に遭い、脳挫傷、びまん性軸索損傷、硬膜下血腫、右側頭部挫傷の傷害を負いました。治療後に残った高次脳機能障害、右前額部肥厚性瘢痕について、後遺障害等級認定の申請をしたところ、損害保険料率算出機構より以下の①②のとおりに判断され、併合第 6級と認定されました。
- ① 脳挫傷による高次脳機能障害 ⇒7級4号
- ② 右前額部肥厚性瘢痕による外貌醜状 ⇒9級16号
これに対し被告は、①高次脳機能障害については7級4号ではなく、9級10号に留まる程度であり、②外貌醜状については原告の労働能力に関して悪影響はないものと主張しました。 原告は、本件事故により以前から勤務していた飲食店を休職してそのまま退職しましたが、高次脳機能障害のリハビリを兼ねて、別の飲食店でアルバイトとして再就職しました。しかし、原告はアルバイト先において、メニューを覚えられない、トッピング・材料等を覚えられない、メモをとっているが覚えられない、忙しくなると混乱してしまう、2つの作業を同時にこなすことができないといった支障がみられました。そのような状態でも週4~5日のアルバイトは継続できており、バイトリーダー的な役割で稼働していたものの、結局は退職してしまいました。 日常生活においては、仕事でのミスや不手際からイライラして母に暴力的な言動をとる、アルバイトの給料等を散財する、金銭が足りなくなれば強い口調で母に無心する、同じ話を繰り返す、会話が盛り上がると止まらなくなるといった状態でした。 以上より、裁判所は、原告の高次脳機能障害の程度について、後遺障害等級7級4号に相当するものと判断しました。また、外貌醜状についても、人目に付く程度以上のものと捉えられることから、後遺障害等級9級16号に相当するものとされ、原告の後遺障害の程度は、後遺障害等級併合第 6級に相当すると認められています。
高次脳機能障害で後遺障害等級第7 級と認定された解決事例
続いて、弁護士法人ALG における実際の解決事例のうち、高次脳機能障害で後遺障害等級第7級と認定されたものをご紹介します。
【case1】
被害者のAさん(20代男性)は、自動車を運転していたところ、センターラインをオーバーしてきた対向車に衝突され、重傷を負いました。その後、長期にわたる治療の末、事故から約10年後に症状固定となりました。そこで、後遺障害等級認定の申請をしたところ、個々の症状は以下の①②のとおりに判断され、併合第 8級と認定されました。
- ① 頭部外傷による高次脳機能障害(記憶力の低下あり。てんかん発作もあるが、服薬により症状は抑制されている状態。) ⇒9級10号
- ② 顔面部および頭部にかけての線状痕による外貌醜状 ⇒12級13号
しかし、Aさんは特に①高次脳機能障害の等級について納得がいかず、弊所に後遺障害等級の異議申 立てを依頼されました。
当該事例の担当弁護士は、異議申 立てにあたり、医師に再検査を行ってもらったうえで、「神経系統の障害に関する医学的意見」等の診断書を詳しく記載してもらいました。そして、Aさんの奥様にもアドバイスをしたうえで、仕事や日常生活における支障が具体的にわかるような詳細な報告書を作成してもらいました。その結果、上記①については異議が認められ、7級4号に認定されました。 また、休業損害についても、症状固定に至るまでの収入資料等をもとに適切な主張を続けたところ、Aさんが納得のいく金額で合意することができました。 以上より、当該事例では、相手方の保険会社が当初に 提示していた損害賠償金よりも、約3500万円増額させることに成功しています。
【case2】
被害者のBさん(高齢男性)は、信号機がない交差点を自転車で直進していたところ、一時停止規制のある交差道路から右折しようとした自動車と衝突しました。Bさんは重傷を負い、救急搬送時には意識障害がありましたが、治療により回復し、事故から約7ヶ月後に症状固定となりました。 このような状況の下、Bさんのご家族が、今後の対応について弊所に相談されました。
当該事例の担当弁護士は、後遺障害等級認定の申請にあたり、Bさんの行動障害等を踏まえたうえで、必要な書類を揃えました。その結果、個々の症状は以下の①②のとおりに判断され、併合第 6級という高い等級が認定されました。
- ① 外傷性くも膜下出血による高次脳機能障害 ⇒7級4号
- ② 大腿骨頚部骨折による右股関節の機能障害 ⇒10級11号
また、過失割合についても、相手方の保険会社と交渉の末、弁護士介入前よりもBさんに有利な割合を引き出すことができました。 さらに、Bさんが高齢で事故当時無職であったことから、慰謝料の交渉を特に重点的に行ったところ、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料ともに弁護士基準における満額を請求することに成功しました。 以上より、十分な額の損害賠償金を獲得することができ、今後の生活等を心配されていたBさんやご家族に、ご納得いただける結果となりました。
高次脳機能障害かもしれないと思ったらご相談ください
高次脳機能障害は見た目ではわからないため、被害者本人や家族ですら認識していないことも多く、見過ごされやすい障害であるといえます。事故後になんとか仕事に復帰できたとしても、周囲からは「付き合いづらい人」とみなされて、社会から孤立してしまうケースも少なくありません。 高次脳機能障害で現れる症状は、「認知障害」「行動障害」「人格変化」といった精神的なものであるため、重症度の判断がとても難しく、示談交渉においても争いになりがちです。 そこで、適正な損害賠償金を請求するためにも、交通事故事案に強く、高次脳機能障害の事例を多く扱っている弁護士に依頼されるのをおすすめします。そのような弁護士であれば、後遺障害等級認定の申請の際にも、ポイントを押さえた診断書を作成してもらうよう医師に掛け合ったり、より高い等級を取得するために必要な資料を揃えたりすることができます。 高次脳機能障害という重く複雑な障害を負いながら、被害者本人や家族が、自力で各種手続や保険会社との交渉を進めるのは大変困難なかと思われますので、 ご自身の負担軽減のためにも、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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※死亡・後遺障害等級認定済みまたは認定が見込まれる場合
※事案によっては対応できないこともあります。
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