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脳損傷の後遺障害|交通事故による症状について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 谷川 聖治
監修 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates執行役員
監修 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates執行役員

交通事故による怪我で恐ろしいのは、脳損傷です。交通事故で頭を強く打ち付けてしまったような場合に、脳に損傷(外傷性脳損傷)を受ける可能性があります。 このページでは、脳損傷になってしまった場合の対処についてご説明します。

脳損傷とは?

脳損傷とは、その名のとおり、脳が損傷することをいいます。交通事故で問題となるのは、頭部への強い衝撃等で脳が損傷してしまう外傷性脳損傷(TBI)です。 外傷性脳損傷を負うと、激しい頭痛、めまい、嘔吐、意識障害、半身の麻痺、しびれ、言語障害、高次脳機能障害等といったさまざまな症状が現れます。最悪の場合には、遷延性意識障害(植物状態)に陥ってしまうこともあります。これらの症状は、外傷性脳損傷の種類ごとに異なります。 外傷性脳損傷の種類としては、脳震盪や急性硬膜外血種、急性硬膜下血腫等いろいろなものがありますので、後ほどご説明します。

脳損傷と診断されたら?

脳損傷と診断された後は、病院で治療を受けるのはもちろん、脳損傷の自分や周囲への影響を鑑み、後遺障害等級認定の申請や、示談交渉等を行っていくことになります。

病院で治療を受ける

診断方法が確立されていないため、神経学的検査を含んだ詳細な診察に加え、幅広い科の協力による総合的な診断が必要です。 具体的には、CTとレントゲン、MRIの3つの検査が主軸となります。 CTとレントゲンは、主に骨の異常を把握するために画像を撮影する、X線を使った検査です。特にCTは、出血に対する診断能力が非常に優れているほか、外傷の骨への影響も詳しく短時間で診断できる検査方法です。このCTとレントゲンで、頭蓋骨の骨折状況や出血状況等について把握します。 MRIは、細かい部分の診断について特に優れている検査方法です。MRIで主に筋肉等の軟部組織を確認し、細かい脳内出血等の有無を把握します。 CTやレントゲン、MRIで異常が見つかった場合、脳損傷が重度であれば、頭蓋内の血腫の除去等といった外科手術を受けることがあります。また、症状が中等度以上の患者に対しては、十分な換気、酸素化、脳灌流(脳の血管を通して人工的に血液を流すこと)を行い、二次性脳損傷の回避に努めます。しかし、脳損傷そのものに対する根本的な治療法はなく、対症療法が中心となります。 治療をしても、麻痺や高次脳機能障害等が後遺症として残ってしまうことがあります。後遺症が残ってしまった場合には、脳の機能回復のため、回復期病院(リハビリ病院)に転院してリハビリをする必要があるでしょう。

脳損傷の種類

脳損傷は、「びまん性脳損傷」と「局所性脳損傷」に大きく分類されます。 「びまん性脳損傷」は、強い力により頭蓋が回転させられ脳全体が損傷するものをいい、意識障害の有無等により、「脳震盪」「びまん性軸索損傷(DAI)」に分けられます。 「局所性脳損傷」は、脳の限られた部位が損傷することをいい、「脳挫傷」「急性硬膜下血腫」「急性硬膜外血腫」「脳内血腫」の4つに分けられます。 簡単に見ていきましょう。

脳震盪

最もよく起こる外傷性脳損傷の類型です。 脳震盪の主な症状としては、意識喪失、意識障害、健忘症状、めまい・ふらつき、頭痛といったものが挙げられます。 器質的損傷を伴わないので、CT検査等を行っても異常を確認しにくいです。 脳震盪が起こった場合には、基本的に安静にすることが大切です。6週間程度で脳の働きは正常化しますが、完全に落ち着くまでに再び脳震盪を起こすと、セカンドインパクト症候群という重篤な意識障害が起こり後遺症が残るリスクが高くなるため、注意が必要です。

交通事故で脳震盪になってしまった場合の慰謝料の解説

びまん性脳損傷(びまん性軸索損傷)

びまん性軸索損傷とは、回転する力が頭部に加わり脳全体が揺さぶられることで脳内の神経細胞が損傷する、びまん性の脳損傷です。脳挫傷とは異なり、頭部の外傷の有無を問いません。 損傷の程度により、症状の程度も変わります。軽い場合には日常生活を続けることができますが、重い場合には、遷延性昏睡(植物状態)になってしまうことがあります。 一般的な症状としては、意識障害、運動障害、高次脳機能障害等があります。 外傷のないびまん性軸索損傷の場合には、CTやレントゲンといった検査では明らかな異常を発見することが難しいため、軟部組織等の細かい部分まで確認することのできるMRIによる画像検査による診断の方が優れています。

びまん性軸索損傷の解説│症状や後遺障害など

脳挫傷

脳挫傷とは、頭部へ強い衝撃を受けることにより、脳組織が損傷して出血し脳が腫れてしまう、局所性の脳損傷です。衝撃を受けた部位と反対側の脳も頭蓋骨に強く当たり、対側損傷という脳挫傷が起こることもあります。外傷性くも膜下出血を合併することも多いです。 主な症状としては、頭痛、嘔吐で、半身の麻痺や感覚障害、言語障害、痙攣発作、意識障害等が起こる場合もあります。損傷の程度が軽ければ、症状はほとんど出現しないこともありますが、損傷の部位と範囲によっては、深刻な後遺症が残ることがあります。 CT検査により、脳挫傷の有無を診断できます。

交通事故で脳挫傷になってしまった場合

急性硬膜下血腫

急性硬膜下血腫とは、頭部への強い衝撃が原因で、脳を包む3層構造の髄膜(軟膜、くも膜、硬膜)という膜の内、硬膜とくも膜の間に出血が起こり血が溜まってしまう、局所性の脳損傷です。 出血量が多く脳を強く圧迫する場合には、緊急の手術で救命する必要があります。 主な症状としては、強い頭痛、意識障害、瞳孔拡大、手足の麻痺等があり、怪我の直後や数分~数時間後に出現します。ただし、出血量が少ない場合には、自覚症状がないこともあります。時間とともに症状が変化していくので、注意して観察することが必要です。 CT検査により、出血量や血腫の有無、脳の圧迫具合等を確認し、診断します。 出血量が多い場合には、血腫除去術や外減圧術、緊急穿孔術といった、止血や血腫(体内に溜まった血)の除去を目的とした手術を行います。

急性硬膜外血腫

急性硬膜外血腫とは、頭部への強い衝撃が原因で、脳を包む3層構造の髄膜(軟膜、くも膜、硬膜)の内、硬膜と頭蓋骨の間に出血が起こり血が溜まってしまう、局所性の脳損傷です。 症状としては、激しい頭痛と嘔吐が起こり、どんどんひどくなっていきます。出血が進むことにより脳が圧迫され、怪我の6時間から遅いと数日してから急激に意識障害が出ます。 脳震盪や脳挫傷等と合併して起こることが多いです。 CT検査やレントゲン検査で、頭蓋骨の骨折や血腫の有無、場所等を確認し、診断します。 治療としては、血腫除去手術や外減圧術、緊急穿孔術といった、止血や血腫の除去を目的とした手術を行います。ただし、自覚症状がなく血腫が小さい場合は、止血剤を投与する等の保存的治療を行います。

外傷性くも膜下出血

外傷性くも膜下出血は、頭に強い衝撃を受け、脳を包む髄膜の内の1つであるくも膜の内側に出血が起こる、局所性の脳損傷です。脳卒中の一種である、脳動脈瘤が破裂することにより起こるくも膜下出血とは原因や治療法が大きく異なります。 主な症状としては、頭痛、嘔吐、意識障害等です。脳挫傷を合併していることもあり、合併している場合には、脳挫傷による症状も起こります。 CT検査により、くも膜下出血の有無、脳挫傷の有無等を確認します。その際、造影剤を用いる3DCT検査を行うと、より詳しく検査できます。MRI検査で脳動脈の状態や脳挫傷の有無を調べることもありますが、まずはCT検査が行われます。 一般的なくも膜下出血とは異なり、基本的に治療としての手術は行いません。くも膜下に溜まった血液は、少量であれば自然に吸収されますので、程度に応じた対症療法を行うことになります。

脳梗塞

脳梗塞とは、脳の一部が詰まり、その先の脳細胞に十分な血流がいかず脳細胞が損傷する脳損傷の類型です。 外傷性脳損傷の1つとして脳梗塞も起こり得ます。しかし、脳梗塞と交通事故の因果関係を証明する必要があるため、当然には後遺障害として認められるものではありません。

交通事故後に脳梗塞になった場合

脳損傷の後遺障害と慰謝料

外傷性脳損傷が起こった場合、残ってしまう可能性のある後遺障害は、次のようなものです。

  • 高次脳機能障害
  • 麻痺
  • 寝たきり(遷延性意識障害)
  • 運動障害
  • 感覚障害
  • てんかん

高次脳機能障害

高次脳機能とは、大脳の活動の総称であり、高次脳機能障害とは、大脳活動に支障をきたしたことにより生じる障害をさします。 高次脳機能障害により、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害等が生じ、社会適合性を欠くようになってしまうことがあります。一方、視覚、聴覚等の感覚機能や手足の運動機能に大きな障害がない場合、画像検査でも明らかな異常が見つからないことが多いため、脳損傷の事案で、見落とされがちな後遺障害です。

高次脳機能障害

請求できる後遺障害慰謝料

等級 別表第Ⅰ1級1号 別表第Ⅰ2級1号 3級3号 5級2号 7級4号 9級10号
自賠責基準 1600万円 1163万円 829万円 599万円 409万円 245万円
弁護士基準 2800万円 2370万円 1990万円 1400万円 1000万円 690万円
等級 別表第Ⅰ1級1号 別表第Ⅰ2級1号 3級3号 5級2号 7級4号 9級10号
自賠責基準 1600万円 1163万円 829万円 599万円 409万円 245万円
弁護士基準 2800万円 2370万円 1990万円 1400万円 1000万円 690万円

麻痺

麻痺とは、筋肉の硬直や弛緩等により、自分の意思で身体を自由に動かせなくなる、運動機能の障害をいいます。 麻痺の生じた範囲、程度、介護の要否と程度により、後遺障害の等級は異なります。

交通事故による【麻痺】と後遺障害

請求できる後遺障害慰謝料

等級 別表第Ⅰ1級1号 別表第Ⅰ2級1号 3級3号 5級2号 7級4号 9級10号 12級13号
自賠責基準 1600万円 1163万円 829万円 599万円 409万円 245万円 93万円
弁護士基準 2800万円 2370万円 1990万円 1400万円 1000万円 690万円 290万円
等級 別表第Ⅰ1級1号 別表第Ⅰ2級1号 3級3号 5級2号 7級4号 9級10号 12級13号
自賠責基準 1600万円 1163万円 829万円 599万円 409万円 245万円 93万円
弁護士基準 2800万円 2370万円 1990万円 1400万円 1000万円 690万円 290万円

寝たきり(遷延性意識障害)

寝たきり(遷延性意識障害)とは、いわゆる植物状態のことをいいます。自力での移動や食事、排泄、発話、意思疎通等ができない症状です。大脳の広範囲が損傷することにより発症します。

請求できる後遺障害慰謝料

等級 自賠責基準 任意保険基準
別表第1 1級1号 1600万円 1163万円
別表第1 2級1号 2800万円 2370万円

まずは交通事故専門の受付スタッフが
丁寧にお話しをお伺いいたします

脳損傷の慰謝料の計算例

では、脳損傷の慰謝料はどれくらいになるのでしょうか。 入院期間10ヶ月・通院期間480日・実通院日数450日・後遺障害等級3級3号(高次脳機能障害)の場合を例として計算してみました。

自賠責基準の場合

自賠責基準とは 自賠責基準は、被害者の損害を最低限保証するものであるため、3つの基準の中で1番低い基準です。 1日4200円×通院日数(通院期間と実通院日数×2のいずれか少ない方)が入通院慰謝料の計算方法となりますが、治療費、交通費、休業損害その他全ての損害賠償額と合わせて120万円が上限となります。

自賠責基準の計算例
自賠責基準の場合、入通院慰謝料は次のようになります。

入通院慰謝料=日額4200円×780日=327万6000円 ただし、自賠責保険では傷害分の賠償額の上限が120万円なので、最大120万円 また、後遺障害慰謝料は829万円なので、 慰謝料総額=入通院慰謝料+後遺障害慰謝料=120万円+829万円=949万円 したがって、自賠責基準での慰謝料は、最大949万円となります。

弁護士基準の場合

弁護士基準とは 弁護士が、示談交渉や裁判をする際に使用している基準です。交通事故の過去の裁判例をもとに設定され基準であり、裁判基準ともいわれます。 弁護士基準で通院慰謝料を算定する場合は、通院日数ではなく、通院期間をもとに計算します。 3つの基準の中で、もっとも高額な基準となります。

弁護士基準の計算例 弁護士基準の場合、入通院慰謝料は347万円、後遺障害慰謝料は1990万円なので、 慰謝料総額=入通院慰謝料+後遺障害慰謝料=347万円+1990万円=2337万円 したがって、弁護士基準での慰謝料は、2337万円となります。

お困りでしたら弁護士にご相談ください

外傷性脳損傷について理解を深めていただけたでしょうか。 外傷性脳損傷は、症状が重篤になりやすく、後遺障害も重くなりがちです。しかし、例えば交通事故で頭を強く打ち脳梗塞を発症したような場合には、事故との因果関係の証明が非常に困難になります。そこで、交通事故と医療両方の専門知識を持った弁護士によるアドバイスが必要です。 医療問題に強い弁護士がいれば、今後の治療についてのアドバイスももらえますし、慰謝料において重要な後遺障害等級認定の手続きも任せることができます。 脳損傷という大変なお怪我をされ、いろいろな心配事があると思います。弁護士は、そんな皆様の心配の解消を手助けする職業です。 少しでも困ったことがあれば、まず一度ご相談ください。

脳損傷の交通事故との因果関係が認められた裁判例

札幌地方裁判所 平成26年(ワ)第2569号 損害賠償請求事件

<事案の概要>

原告であるXが、Xの運転する普通乗用車と被告であるYの運転する大型貨物自動車が衝突して怪我し、後遺障害が残ったとして、YとYの使用者である運行供用会社に対して損害賠償を請求した事案です。 争点は多岐に渡り、過失割合やXの後遺症と交通事故との因果関係の有無、素因減額等が争われました。

<裁判所の判断>

本事案では、Xの認知機能の障害が、交通事故の後遺障害である高次脳機能障害であると認められるかが争われ、その前提として、Xに外傷性脳損傷が生じたか否かも問題となりました。 この点、Xの事故直後の状況としては、意識障害はなく、画像検査でも、硬膜下水腫と左高等部の大きな皮下血腫はあるものの、脳挫傷や脳内出血を示すものは確認されず、加齢による脳の変化しか認められませんでした。しかし、事故直後に撮影された画像と約1年4ヶ月後に撮影された画像を比較すると、加齢による変化以上の脳萎縮(側脳室の拡大)があることがわかりました。そして、Xは事故後から、記憶障害、注意障害、遂行障害、社会行動障害等といった高次脳機能障害の症状に適合する症状が生じていました。 びまん性軸索損傷の場合、怪我直後の画像では正常に見えることもあり、経過観察して脳室の拡大や脳萎縮等の有無を確認することが必要とされます。そして、本事案では、Xには脳外傷があったことを示す脳萎縮が認められ、また、神経心理学的検査の結果によってもPIQ(動作性知能)の低下という原告に脳外傷があったと推測される事情がありました。 以上の事情を鑑み、裁判所は、事故直後、画像診断では診断が難しいびまん性軸索損傷が生じたと推測するのが相当であると認めました。 そして、本事案では、高次脳機能障害を診断する際に考慮される事情である怪我直後の意識障害は見られないものの、Xの症状は、厚労省の基準に照らして高次脳機能障害であることを認めるに足りるものであるから、後遺障害等級9級10号が認定されました。

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