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交通事故後に認知症が発症した場合の因果関係

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 谷川 聖治
監修 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates執行役員
監修 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates執行役員

特に高齢者が交通事故に遭った場合、事故直後や長期の治療中に認知症を発症したり、悪化したりしてしまうことがあります。 認知症とは、成人になり脳が十分に成長発達した後に、何らかの原因で、慢性的に知能が低下する症状をいいます。したがって、急性の意識障害等で起きる認知障害は、認知症とはいいません。 交通事故が原因として疑われる認知症の問題点とは、いったいどのようなものなのでしょうか。以下、説明していきます。

交通事故と認知症の因果関係は? 認知症になってしまったら?

認知症の発症について非常に大きな問題となるのは、認知症の発症と交通事故との間に、因果関係があるか否かです。 交通事故が原因であると疑われる認知症の場合、因果関係の有無について、既往症である元々の脳の障害等が、認知症の発症にどれだけ影響を与えたかという観点からも検討されます。 そのため、認知症の発症が交通事故によるものといえるか、後遺障害等級は何級が該当するかを判断する際に、因果関係の有無が非常に難しい問題となってきます。 では、交通事故により認知症になってしまったらどうしたら良いのでしょうか?

病院で治療を受ける

交通事故を原因とする外傷等により、認知症が疑われる場合、まずは病院へ行き診断を受けましょう。 認知症になると、記憶障害や見当識障害、書字・計算能力等の知的な機能の低下が起こります。そのため、知的機能を図る様々な簡易知能テストにより、認知症の診断をすることができます。 診断のためによく使われる簡易知能テストとしては、改訂長谷川式簡易知能評価スケールや、MMSE(ミニメンタルステート)等があります。ただし、認知症以外の精神疾患や意識障害によっても、同様に知的機能が低下するため、脳の画像診断も重要になります。 頭部CT検査や頭部MRI検査による画像診断により、脳萎縮や脳梗塞の存在が発見され、かつ、知的機能の低下があると認められた場合に、認知症の診断が下されます。 認知症の治療としては、主に投薬治療が中心となります。認知症を完治させる薬は未だ開発されていませんが、近年の新薬の開発により、知的機能の低下を緩やかにしたり、いくらか改善させたりすることが可能になりつつあります。

認知症と関係のある後遺障害と慰謝料

後遺障害として認知症が認められる場合、同時に別種の後遺障害が認定されることが多いです。 例えば、高次脳機能障害や外傷性脳損傷(外傷性てんかん等)、麻痺等が挙げられます。以下で簡単に説明していきます。

高次脳機能障害

高次脳機能障害と認知症は、症状が似ているため、混同されやすい後遺障害です。そのため、周囲の方が「認知症である」と思っても、高次脳機能障害を発症している可能性があります(ただし、高次脳機能障害と認知症を併発している場合もあるため注意が必要です)。 高次脳機能障害と認知症の違いとしては、回復する可能性の有無です。 高次脳機能障害は、適切な治療を受けることで、徐々に認知機能が回復することがあります。これに対し、認知症では、神経の損傷がどんどん悪化していくため、回復する可能性がほとんどありません。高次脳機能障害について詳しく知りたい方は、下記の記事をお読みください。

高次脳機能障害

請求できる慰謝料

高次脳機能障害が後遺障害として認められる場合に、認定され得る後遺障害等級と後遺障害慰謝料の相場についてまとめた表です。

等級 自賠責基準 弁護士基準
別表第Ⅰ 1級1号 1600万円 2800万円
別表第Ⅰ 2級1号 1163万円 2370万円
別表第Ⅱ 3級3号 829万円 1990万円
5級2号 599万円 1400万円
7級4号 409万円 1000万円
9級10号 245万円 690万円

外傷性脳損傷

外傷性脳損傷(TBI)とは、頭部への強い衝撃等で脳が損傷してしまうといった、外傷による脳の損傷をいいます。外傷性脳損傷の症状としては、激しい頭痛やめまい、嘔吐、意識障害等があり、高次脳機能障害が現れることもあります。 また、認知症にはいくつか種類がありますが、脳梗塞や脳出血を伴う外傷性脳損傷によって、「脳血管性認知症」を発症する場合があります。脳血管性認知症により、記憶力や注意力、判断能力の低下が起こりますが、低下の度合いが一定以上で、日常生活や労働等に支障が出る場合には、後遺障害等級が認定される可能性があります。 外傷性脳損傷について、より詳しく知りたい方は、下記の記事で説明していますのでご覧ください。

脳損傷

請求できる慰謝料

外傷性脳損傷が後遺障害として認められる場合に、認定され得る後遺障害等級と後遺障害慰謝料の相場についてまとめた表です。

等級 自賠責基準 弁護士基準
別表第Ⅰ 1級1号 1600万円 2800万円
別表第Ⅰ 2級1号 1163万円 2370万円
別表第Ⅱ 3級3号 829万円 1990万円
5級2号 599万円 1400万円
7級4号 409万円 1000万円
9級10号 245万円 690万円

外傷性てんかん

外傷性てんかんとは、頭部の外傷等により、大脳の神経細胞が過剰に興奮し、意識消失や痙攣発作といった運動障害や自律神経症状等が起こってしまう、慢性の脳疾患です。 詳しくは下記の記事にて説明しています。

外傷性てんかん

外傷性てんかんが後遺障害として認められる場合に、認定され得る後遺障害等級と後遺障害慰謝料の相場についてまとめた表です。

等級 自賠責基準 弁護士基準
別表第Ⅰ 1級1号 1600万円 2800万円
別表第Ⅰ 2級1号 1163万円 2370万円
別表第Ⅱ 3級3号 829万円 1990万円
5級2号 599万円 1400万円
7級4号 409万円 1000万円
9級10号 245万円 690万円
12級13号 93万円 290万円

麻痺

麻痺とは、筋肉の硬直や弛緩等が原因で、自力で身体を自由に動かせなくなってしまう、運動機能の障害です。

交通事故による【麻痺】と後遺障害

麻痺が後遺障害として認められる場合に、認定され得る後遺障害等級と後遺障害慰謝料の相場についてまとめた表です。

等級 自賠責基準 弁護士基準
別表第Ⅰ 1級1号 1600万円 2800万円
別表第Ⅰ 2級1号 1163万円 2370万円
別表第Ⅱ 3級3号 829万円 1990万円
5級2号 599万円 1400万円
7級4号 409万円 1000万円
9級10号 245万円 690万円
12級13号 93万円 290万円

長期の入院による二次的要因

特に高齢者の場合、長期の入院による生活環境の変化やストレス等により、認知症を発症してしまうことがあります。 このような認知症の発症は、交通事故による外傷等を直接の原因とするものではありません。そのため、交通事故と認知症の発症との因果関係が問題となることがあります。 この点、「神戸地方裁判所 平成11年(ワ)第1788号 損害賠償請求事件」では、事故後に被害者である高齢者がアルツハイマー型認知症を発症したことに対し、交通事故が発症の二次的要因であると認めました。 判決では、認知症と交通事故との直接の因果関係はないものの、交通事故による長期間の入院生活が発症に大きく関与したといわざるを得ず、アルツハイマー型認知症と合併の関係にある脳血管性認知症発症の直接の原因として、事故の外傷による硬膜下血腫あるいは器質性脳損傷が考えられると認め、被害者の認知症の発症について、事故が大きく寄与していると判断しました。 このように、長期の入院により認知症を発症した場合には、交通事故による外傷が二次的要因として認められると考えられています。

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認知症を発症した場合の慰謝料の計算例

では、後遺障害として認知症が残った場合、慰謝料はどのくらいもらえるのでしょうか。 入院期間13ヶ月(390日)・通院期間520日・実通院日数510日・後遺障害等級3級3号(高次脳機能障害と認知症を発症)の場合を例にご説明します。 なお、例の場合の慰謝料額は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の合計となります。

自賠責基準 自賠責基準は、被害者の損害を最低限保証するものであるため、3つの基準の中で1番低い基準です。1日4200円×通院日数(通院期間と実通院日数×2のいずれか少ない方)が入通院慰謝料の計算方法となりますが、治療費、交通費、休業損害その他全ての損害賠償額と合わせて120万円が上限となります。 自賠責基準では、入通院慰謝料について、2種類の計算式のいずれかを使って計算します。「日額4200円×入通院期間」又は「日額4200円×実治療日数の2倍」で、入通院期間か実治療日数の2倍の、いずれか小さい方の計算式を使います。 例の場合、入通院期間日数910日<実治療日数1020日なので、「日額4200円×入通院期間910日」の式を使います。 したがって、382万2000円となりますが、自賠責基準では「傷害」の分の損害賠償は、治療費や慰謝料すべて含めて120万円が上限とされているので、入通院慰謝料は最高120万円となります。 また、3級3号の場合の後遺障害慰謝料は、829万円なので、慰謝料の合計は、最大で949万円となります。

弁護士基準 弁護士が、示談交渉や裁判をする際に使用している基準です。交通事故の過去の裁判例をもとに設定され基準であり、裁判基準ともいわれます。弁護士基準で通院慰謝料を算定する場合は、通院日数ではなく、通院期間をもとに計算します。 弁護士基準では、入通院慰謝料は、赤い本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)の入通院慰謝料別表を用いて計算します。認知症や高次脳機能障害には他覚症状があるため、別表Ⅰを用います。別表Ⅰによると、入院期間13ヶ月(390日)・通院期間520日の場合の入通院慰謝料は、364万円以上366万円未満となります また、弁護士基準での後遺障害等級3級3号の後遺障害慰謝料は1990万円ですので、慰謝料は、合計2354万円以上2356万円未満となります。

認知症と交通事故の因果関係が認められた裁判例

ここで、交通事故と認知症の因果関係が認められた裁判例をご紹介します。

【大阪地方裁判所 平成18年(ワ)第4409号 損害賠償請求事件】

<事案の概要>

被告の運転する原動機付自転車と、信号機のない交差点を横断歩行中の原告が衝突し、原告(当時69歳主婦)が受傷したため、被告ら(被告車の契約名義人を含む)に対して損害賠償を請求した事案です。 自賠責保険会社により、原告には自動車損害賠償保障法施行令別表第一の2級1号に相当する後遺障害が残ったとして高次脳機能障害が認められましたが、この原告の後遺障害と本件交通事故との因果関係が問題になりました。

<裁判所の判断>

被告らは、原告は本件事故前から認知症を発症していたと主張しましたが、原告に事故前に認知症と診断された事実はなく、明らかな認知症の症状もなかったことから、被告らの主張は退けられました。そして、本件事故による硬膜下血腫や脳挫傷等により、原告の左大脳半球には、左側頭葉を中心とする梗塞ができ、時間経過とともに脳萎縮が見られたことを確認し、症状も増悪していることから、加齢に伴う認知症の進行が影響している可能性はあるものの、後遺障害である高次脳機能障害や認知症と交通事故には相当因果関係があると認めました。 そして、高次脳機能障害等の後遺障害の逸失利益として1316万1067円、後遺障害慰謝料として2400万円を認め、被告らに合計6375万6755円と利息の支払いを命じました。

認知症のまとめ

認知症は、高次脳機能障害と併発することもあり、基本的に混同されやすく、また、加齢による知的機能の低下等が原因として疑われてしまうため、交通事故との因果関係が認められにくい後遺障害です。 しかし、現実に、交通事故の外傷によって認知症になることはありますし、交通事故との因果関係が認められた裁判例がないわけではありません。しかし、事故との因果関係を証明するには、医療知識に加えて法律知識も必要となります。そのため、被害者ご自身で、認知症の発症や、交通事故との因果関係について証明することは難しいといわざるを得ません。 そこで、弁護士への相談をご検討ください。 弁護士にはそれぞれ得意分野がありますから、交通事故により認知症を発症したような場合には、医療問題と交通事故についての知識が豊富な弁護士に相談されることをおすすめします。 ぜひ弁護士に相談し、不安な気持ちや心理的負担を軽くしてください。

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